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こちらは僕が撮影した蛾画像保管を兼ねた蛾専門ブログです。

淡々と画像を貼って種の基本的な情報、僕なりの考察を加えているだけのブログ(というか記録簿)です。

 

何か同定間違いやご意見等ございましたら、コメントをお願いいたします。
一度書き上げた記事でも、記録画像や考察に追加があれば加筆していきます。

 

寄主植物や成虫出現時期等は図鑑や経験に基づいて記述しています。
しかし本文や学名の意味・読み方は必ずしも客観的事実とは限りません。筆者の妄想が多分に含まれています。
簡単に信用して引用する事は絶対にやめてください。

 

↓一応、目的の種を検索しやすいように目次を作っておきました。(まだそんなレベルではないのですが)

蛾色灯。掲載種別目次

 

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------20230110追記

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主要引用文献:
岸田泰則(編),2011.日本産蛾類標準図鑑1.352pp.学研教育出版.東京.  
岸田泰則(編),2011.日本産蛾類標準図鑑2.416pp.学研教育出版.東京.

 

 

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キョウチクトウスズメ Daphnis nerii (Linnaeus, 1758)

 

南方に生息するスズメガである。1960年に奄美大島で最初に発見されて以降、

南西諸島では定着して春から成虫が出現するが、九州以北では未だ冬を越すことができず偶産蛾の域を出ない。

とある研究によると最高気温が10℃以下の日が続くと蛹から成虫に羽化する確率が著しく低下するようだ。

ヨーロッパではアフリカから毎年飛来することが知られており、大移動をして生息地を拡大しようとする習性がある。

幼虫はその名の通り人間に猛毒のキョウチクトウ、ニチニチソウなどを食べて育つ。

 

本州では1998年に静岡と和歌山で記録されたが、関東地方本土域では2010年に千葉県館山市で幼虫が記録されたのみとなっていた。

しかし、ネット上には東京や神奈川でキョウチクトウスズメの発生が疑われる情報が散見され、

関東にも少ないながら飛来していることを窺わせていたが、わが埼玉県には縁の遠い蛾であった。


そんなキョウチクトウスズメが2023年に埼玉で発見され、ちょっとした騒ぎになった。

その辺の顛末は新聞に掲載され、ネットニュースでも報道されたのでこちらをご覧いただきたい。

埼玉県で初確認,巨大なガ「キョウチクトウスズメ」飛来 -埼玉新聞WEB 2024年2月21日掲載-


2023年の9月、Twitter(現X)にて「関東でキョウチクトウスズメを撮りました」という投稿を見つけた。

私は最初「どうせウンモンスズメだろう」と思ったのだが、画像を確認するとキョウチクトウスズメであった。

 

これはヤバいぞ、と思い詳細な場所を聞いたところ、なんと我が家から近い場所であった。

投稿者に採集してよいか尋ねたところ、快諾していただいたので即座に行動に移した。

車を走らせること十数分、見慣れた建物の蛍光灯に鎮座していたのは紛れもないキョウチクトウスズメであった。

P1010002
【成虫♀写真】20230930 埼玉県


関東地方本土部で初めて採集された成虫個体である。(既記録は千葉で幼虫の記録)

はじめはニチニチソウなどの植物に卵が付いて運ばれてきたのかと思っていた。

しかし、調べると小売りされているのはほとんどが埼玉県産であり、定着地域から運んでくる理由がない。

 

これは北上してきたのか...?

そう思い始めたところ、地域一帯で幼虫が相次いで発見されたのだ。

 

多くの人々から情報をいただき、最終的にさいたま市内で8カ所,川口市内で2カ所から発見された。

この「キョウチクトウ狂騒曲」とでも呼ぶべき一連の記録は私の方で取りまとめ、報文として発表した。
飯森政宏,2023.関東地方本土部(埼玉県・茨城県)および静岡県にて発生したキョウチクトウスズメ.蛾類通信(308):234-237.


ともわれ、我が街にも憧れのキョウチクトウスズメがやって来た。

2023年に公開された映画の如く、まさに「翔んで埼玉」にやってきたのだ。




もちろん飼育する機会にも恵まれた。

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ツルニチニチソウを食べるキョウチクトウスズメの終齢幼虫



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サナギで雌雄がわかることが判明。

 


室温をある程度に保っておけば羽化まで問題なく持っていける。
Photo_20240227011801

尾端にある緑濃色の斑紋が3カ所あるとオス,2カ所だとメスであり、容易に判別が可能である。
  
Photo_20240227011802
【成虫♂個体】飼育羽化



231212
【成虫♀個体】飼育羽化


飼育が苦手な私でも、我が家ではキョウチクトウスズメが毎日のように羽化してきた。
 Photo_20240227011602
羽化直後のキョウチクトウスズメ 蛹殻と共に。


新聞記事が出て以降、「私も関東で撮影していました」と画像を何名の方から送っていただいた。

とてもありがたい申し出であったが、画像を確認するとすべてウンモンスズメであった。

 

我々のように常日頃から蛾を気にしている人種には当たり前のように違う蛾なのだが、普段蛾に注目していない方にとっては

緑色の迷彩の蛾を見た、という記憶が鮮明に残り、まさかそれが二種いるなんて思いもしないのだろう。


【ウンモンスズメ】は弊ブログでも一度紹介しているが、良い機会なので改めてここで比較してみる。
Photo_20240227012401Photo_20240227012001
キョウチクトウスズメ(左)とウンモンスズメ(右)


キョウチクトウスズメはスズメガとしては大きい部類に入る。胸のあたりがハチワレになっており、翅を桃色のラインが駆け巡る。

翅の付け根に目玉のような模様が見られるのもわかりやすい。

 

対するウンモンスズメは大きさとしては中程度であろう。後ろ翅は鮮やかな紅色をしている。翅が細い印象。

こうやって書くと似てる…のかなぁ?

 

種小名はnerii(ネリィ)。人名由来であろう。

埼玉では先述の通り、初記録である。


もちろん現状は埼玉で定着などできないであろう。

しかし今後も飛来する可能性はゼロではない。またいつの日か、我が街に飛んでくる日を待ち続けようと思う。


Photo_20240227011601
 

キョウチクトウスズメ  Daphnis nerii  famale

埼玉県 Sep. 30,2023/Masahiro IIMORI leg.

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ヒメカクモンヤガ Chersotis deplanata (Eversmann, 1843)

 

モンヤガ亜科のなかでも、国内における確認例が極めて少なく幻とされていた蛾である。

どれくらい幻かというと、2020年時点で

1♀,碓氷峠 1922年8月22日

1♀,北軽井沢 1959年7月28日

2♂♂1♀,菅平高原 1962-63年8月下旬

1♀,利尻島 2004年8月19日

1♂,霧ヶ峰 2012年9月2日

これらの7個体が記録されていただけであった。(その後、霧ヶ峰で追加記録がある)某ヒゲの蛾よりも少なかったのだ。

日本の冬夜蛾に倣って★をつけるとすれば7~8は堅いであろう。

環境省レッドリスト2020において「絶滅危惧IB類 (EN) 」に指定されているが、7月から8月に出るようだ、としかわかっていなかった。

 

利尻島を除けば特に行くことが難しい場所ではない。北軽井沢だの碓氷峠だの、僕は何度も通っていて車で横付けできる場所である。それでこの少なさ。まさに幻である。

軽井沢周辺をホームグラウンドとしてモンヤガフリークと自称する以上、どうにかして墜とせないかと考えていた。

 

2021年,8月21日。

僕は上信越高原の既知産地にほど近い草原に行ってヒメカクモンヤガを狙ってみることにした。

過去記録を見ると8月下旬が多いからなんとなく、既知産地に近いし残っていたらワンチャン・・・ と正直あまり期待もしていなかった。

現地に着くと、予定していたポイントには車が停まっていた。どうやら車中泊のようだ。

これでは屋台を建てて灯火採集などできない。仕方ない、場所を変えるか...

 

少し降りたところに花がたくさん咲いている場所を見つけるが、ちょっと灯火ができるような場所ではない。

今日は諦めかな・・・ そうだ訪花してるかもしれない、今日は花を見回ってみよう。

そんな感じでルッキングに徹することにした。

 

1時間ほど歩いただろうか、20時頃である。

 

草の茎に小さい蛾が止まっていた。どうせショウブヨトウかな、と確認する。

 

色が違う。 灰色だ。

 

  な   ん   だ   こ   れ  ?

 

ヒメカクモンヤガの生態写真は今までに撮影されていない。

いくつかの標本写真があるが、スレたものも多くなんとなく茶褐色の蛾だと思っていた。

DMJに掲載された標本写真の印象が強かったのだろう。

斑紋はヒメカクモンヤガに見えた。まさか生きてるときはこの色なのか…!

身体中を鳥肌が襲った。良く見ようと顔を近づけた途端、無情にもその灰色の蛾は飛び去った。

 

痛恨のミスである。

 

痛恨どころではない。40も半ばを超えた中年のオッサンが泣きそうになった。

 

これはもう採るまで帰らないと決めた。

 

しかし探しても探してもその蛾は現れない。

 

22時を過ぎた。花を見始めて3時間以上が経過している。

さすがに心が折れそうになるが、帰るわけにはいかない。ここには間違いなくヒメカクモンヤガがいるのだ。

 

いるのだ・・・ いるよなぁ・・・ あれ本当にヒメカクモンだったのかなぁ・・・

 

そんな悪魔のささやきが聞こえてくる。もう訪花してる蛾なんてほとんどいない。

また明日、明後日の仕事に響くけどちょっと無理してやってみるか・・・

そんなことを思い始めていた。

 

クロヤガやシロモンヤガはオミナエシやハギにやたらと来ている。マツムシソウにもよく来ていた。

必然とそんな花をずっと見回っていた。

 

ふとツリガネニンジンを見た。これまでそういえばツリガネニンジンはあまり注目していなかった。

小さい蛾が吸蜜している。あれ、もしかして・・・ これは・・・!

 

いた。

やはりそうだ、ヒメカクモンヤガだ。

なるほど、お前はこんなとこにいたのか・・・

 

感動よりも安堵が先に来た。時間が遅いからなのか動きが鈍い。

これは写真が撮れるな、と思い写真を撮る。

Photo_20231127004301
【成虫♂画像】20210821 長野県

ところが写真を一枚撮ったらフラッシュに反応したのか羽ばたきだした。 こうなるともう捕獲優先である。

 

捕獲後、画像を確認したら暗い。それにスレてるなぁ笑 

 

でも、ヒメカクモン採った!

 

 

そこから二年間、若手蛾屋と協力して調査を行い、本種は8月下旬に発生すること、ツリガネニンジンに対し嗜好性が強いことなどが判明した。

その成果は報文として発表したので興味がある方はそちらを一読してください。

飯森政宏・藤井才暉・川島育海・神澤由己・安西稔,2023.長野県上信越高原におけるヒメカクモンヤガの採集記録.蛾類通信(307):204-206.

220819
【成虫♂画像】20220819 長野県

ツリガネニンジンへ吸蜜へ来ることがわかればもう見つけるのは容易い。ヒメカクモンヤガは時期に行けば見られる蛾になった。

ヒメカクモンヤガは幻ではなくなったのだ。 カバシタと並び、僕の蛾人生に大きな出来事として刻まれた。

 

他にも産地があるハズ。またどこか違う場所で会いたい。

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ヒメカクモンヤガ  Chersotis deplanata  male

長野県 Aug. 19,2022/Masahiro IIMORI leg.

Photo_20231127004302 Photo_20231127004303

ヒメカクモンヤガ  Chersotis deplanata  male genitalia
長野県 Aug. 21,2021/Masahiro IIMORI leg.

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ツクシカラスヨトウ Callyna contracta Warren, 1913  

ツクシ、と初めて名を聞いた時は土筆を食べるのかと思っていたがそうではなかった。

九州地方にあった旧地名、筑紫から取った和名であるようだ。

母方のルーツを九州に持つ私だが、九州への採集はあまり行っていなかった。

どうしても緯度や標高が高い場所へ行ってしまう習性があるため、この蛾との縁はこれまでなかったのだ。

 

しかし、この蛾の特徴的な前翅は図鑑やインターネットで見て脳裏に焼き付いている。いつか見たいな、とは思っていた蛾である。

そんな折、蛾類学会の採集例会が宮崎県で行われることになった。これはチャンスだ。こういう機会でもないとたぶん私は九州に来ない。

ネットで画像検索しても少ない。なんとなくだがそんなに採れる蛾ではないんだろうな、と思っていた。

採集例会の前日から九州に入った私は適当に目星をつけライトトラップを行った。

するとである、点灯後30分で飛んできたのだ。

220721_20230823211801
【成虫♂画像】20220721 鹿児島県

しかもビカビカの個体。計3個体飛んできた。

こんな蛾は初めてである。似たような蛾すら見たことがない。南の蛾とはこういうものなのか、と感心しきりである。

良い蛾を初日に採れて大満足である。九州に来た甲斐があるものだ。

翌日、採集例会で九州の蛾屋さんに話を聞くと、そこまで珍しいものでもないが、たくさんいるわけでもない。初日にいきなり採れたのはラッキーでしたねと優しいお言葉をいただいた。

種小名はcontracta(コントラクタ). 直訳すると契約と出る。羅和辞典を引いてみると、収縮した、狭い地域に局限したという意味があるようだ。

他にもこの種小名を使う種は多いようだが、contractaを種小名にもつ蛾に外見の共通点はないので翅を形容したものではなさそうだ。

ちなみに【ウスミミモンキリガ】もcontractaである。生息域が局限している蛾、という意味のような気がする。

寄主植物はチシャノキとされている。

 

埼玉では当然のように記録されていない。

 

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エゾサクラケンモン Acronicta strigosa (Denis & Schiffermüller, 1775) 

「エゾ」と名の付く蛾は多く、50種以上が知られている。しかしその中で「蝦夷地=北海道」特産の種は意外と多くない。

エゾサクラケンモンはそんな真正エゾ蛾のひとつである。

情報が少なく、標準図鑑にもロシア産の標本が使われており、国内ではまれとの記述がある。

 

6月末、道東の湿地で灯りをつけたが、本命はモンヤガ。

正直採れるとも思ってなかった。どんな蛾かもよくわかってなかった。

エゾサクラケンモン、というくらいだからサクラケンモンに似てるんだろう、来たとしてもわかるかな、くらいの気持ちだった。

灯りには【ヒメウチスズメ】や【エゾコエビガラスズメ】など北海道特産の蛾が来ていた。それだけで北ビギナーの僕は満足していた。

 

21時を過ぎた頃だろうか。小さな蛾が飛来していた。幕には止まらず忙しなく地面をちょこちょこ歩いている。

(なんだろう、コヤガみたいな…)

小さくて薄い印象のその蛾は老眼の進んだ僕にはケンモンヤガに見えなかった。

 

(とりあえず見たことない蛾ではあるな)

 

写真に撮って画像を確認する。

 

(これケンモンヤガ…だよな なにこれ…)

そこで思い出した。

 

「え、エゾサクラ!?」

 

声に出ていた。

220630
【成虫♂画像】220630 北海道

もっとサクラケンモンと似ているのかと思っていたが… そうは見えなかった。これは違う蛾である。

特に前翅基部附近や腎状紋が黄色みを帯びることは識別点として書かれているが、それ以前に印象が別物である。

 

【サクラケンモン】が翌日採れたので比較してみた。(といっても裏面だけだが)

Photo_20220921020101
左がサクラケンモン、右がエゾサクラケンモンである。大きさが一見して違う。

エゾは前翅形が丸みを帯び、裏面にも横線がハッキリ出るようだが数を見ていないので有効な識別点かどうかはわからない。

 

種小名はstrigosa (ストリゴーサ)。 痩せた、貧弱な、 という意味があるようだ。

確かに他種と比較するとそういった印象がある。前述しているが、薄くて弱々しく、一見ケンモンヤガに見えなかったのだ。

日本における寄主植物は未知だが、ヨーロッパでは多種の樹木が記録されている。

 

 

 

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フルショウヤガ Agrotis militaris Staudinger, 1888.



_僕は北の蛾が好きである。なかでも、北に多いモンヤガ亜科にはひと際思い入れが強い。

そんな僕の嗜好を決めたのはこのフルショウヤガである。最初に画像を見たときのインパクト、この蛾を見ずに死ねるかと思わせたほどだった。
この蛾に会うことは僕の一つの目標であった。

 

私事になるが、僕はほとんど北海道へ遠征というものをしなかった。というかできなかった。


ある程度の連休をとり、家族(主に嫁)の機嫌を伺い、なおかつ安くはない航空代や遠征費を自分の小遣いから捻出する。とてもじゃないができるものではない。そんな感じで北海道の蛾は諦めていたのが正直なところだった。

状況は変わるものだ。
数年前に部署が異動になり休みがとりやすくなった。子供も大きくなり手を離れつつある。格安航空チケットが手に入る時代になった。

しかしいつまでもこの状況が続くなんて保証はどこにもない。また部署が変ればもう無理だ。


そう思った僕の北への憧憬は一気に爆発する。


9月初旬。この年4度めの北海道。僕はオホーツクの海岸に立っていた。

ついに憧れのフルショウヤガが現実味を帯びてきた。時期に産地へ行きさえすればそう珍しいものでもないという。


海岸に棲むフルショウヤガ。昼は流木に隠れているという。

 

最初の一個体目はライトに飛来したものではない、ありのままのフルショウヤガを見たかった。

 

砂浜の流木を探すこと2時間。いくら北海道とはいえ、日が照り続ける海岸は暑い。Tシャツは汗でびしょびしょになっている。

強烈な陽射しと歩きにくい砂浜が、若いとは言えない僕の体力を容赦なく奪う。

 

頭もボーっとしてきた。喉もカラカラだ。 

まだ早かったか・・・?「フルショーいなくて泣いてる」 と仲間にLINEを送る。

 

半分作業となっていた何十本目かの流木をひっくり返す。

そこに何かいた。白っぽい蛾だ。

 

「あっ... フルショウ...」

憧れの君と遭遇した僕の第一声は思いの外か細かった。

210903_20220817020901
【成虫♂写真】20210904 北海道


北の海岸に佇む貴婦人に出逢った僕は冷静だった。

この蛾の前で取り乱したくない。これは僕にとって謁見なのだ。

フルショウヤガは個体変異が大きい。これは斑紋が清楚な型で美しい。僕の憧憬を裏切らない個体だった。


謁見を済ませた僕は夜のライトで追加を狙う。

海岸に仕掛けたライトには2つのフルショウヤガが飛来した。

210904
【成虫♂写真】20210904 北海道


これはコントラストが強い個体。これもまた美しい。

新鮮な個体を得ることができ、大満足だった。


種小名はmilitaris (ミリタリス) 軍隊、という意味だろうか。



憧れの蛾をひとつ手にするたび、楽しみが減っていくような気もして寂しい。

ひとつの大きな目標を達成するとそんな感傷に浸る。

それでもフルショウヤガに逢えた人生で良かったと心から思う。










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ヒメカレハ
 
Phyllodesma 
japonica (Leech, [1889])

 

春の蛾が一揃いした頃に出現する、年一化のカレハガである。

赤褐色と灰色が混じり、白帯を持ったその姿は他のカレハガに比べると小さく、見ればひと目でヒメカレハとわかるハズだ。

寒いところで良く見るイメージがあり、生息域は北海道と本州に限られている。時期に生息地へ行けば出会うのは容易いだろう。

190503
【成虫♂写真】20190503 山梨県

 

このヒメカレハ、もこもこして可愛らしく見つけるとつい手に乗せてみたくなる。

しかし、手に取るとコロンと擬死をしてしまい、動かなくなってしまうことが多い。

この擬死が頑固で、ちょっとやそっとでは動きだすことはないのだ。

Photo_20211102210801
【成虫♂写真】20110521 長野県

 

まあ擬死をしていても可愛いので問題はないのだが。

メスはあまり見ることができず、僕自身も(おそらく)見たことはない。

 

幼虫の寄主植物はオオヤマザクラ、セイヨウハコヤナギが記録されている。

種小名は japonica (ヤポニカ)。そのまま日本の、という意味である。

以前は欧州に生息するP. ilicifolia の亜種とされていたが、現在は独立種とされている と標準図鑑に記述がある。

 

 

埼玉では旧浦和市と旧神泉村で記録がある。

先にも書いたように寒いところで見るイメージが強く、旧浦和市で記録があるのは驚きだ。

 

以下記録

0230421
【成虫♂写真】230421 長野県

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ムラサキウスモンヤガ 本州亜種 
Cerastis leucographa fujisawai  Kishida, 2021

北海道と本州中部(長野・岐阜・群馬・埼玉・山梨など)の極めて一部に生息する紫色が美しい春のモンヤガである。

 

本州産は濃い紫色をしており、2021年に新亜種とされた。岸田泰則,2021.ムラサキウスモンヤガの一新亜種の記載 TINEA26(1):4-5.

 

ここ数年、モンヤガに執心している僕は是が非とも墜としておきたい種のひとつであった。

4月の休日に既知産地に赴き幕を張ったのも一度や二度ではない。しかしその度に惨敗を重ねるのであった。

 

 

今年も例年のように幕を張った。しかし来るのは【コウスチャヤガ】や【カブラヤガ】だけであった。

今年もダメかぁ…と諦めてかけていたところ、4月下旬になり同地で採集したという報が入ってきた。

即座に行動に移した。仕事を早退し、現地へ向かう。行く道すがらは土砂降りに祟られ幸先が悪い。

 

 

現地に到着、雨は止んでいたが道路は濡れている。幕を張るポイントを選定しながら車を流していると一台の車とすれ違った。

あっ、今の車は… と引き返す。昨年にムラサキウスモンを墜としている強力蛾屋のAくんだった。

やはり彼も来ていた。お互い採れると良いですね、と言葉を交わし各々幕を張る。

 

 

気温は5℃くらいであったろうか。点灯後、蛾が来ない。本当に来ない。2時間経過してミヤマカバ・トビモンオオエダ、エグリヅマ。

まぁ大体この時期ここはこんなもんなのだが、心は折れそうになる。

20時を過ぎたころ、Aくんから飛来したと連絡。悔しいのはさておき、とりあえずこの気温この条件でも飛来することは間違いなさそう。

期待を持つが飛来しない。

 

 

21時が近くなったころ、小さいヤガが飛来しブンブンまとわりついている。

僕の勘が叫ぶ。来た!!!!!!これだ!!!!!!!!

210430
【成虫♂写真】20210428 長野県



僕の勘は正しかった。ようやくムラサキウスモンヤガを墜とすことができた。

結局この日は1♂を採集するに留まったが、また来年チャレンジしてみようと思う。

なお、この個体はC. l. fujisawaiのパラタイプに指定していただいた。

 

 

種小名は leucographa(レウコグラファ) leucoは白い、graphaは描くとかそういう意味なのだろうか。
白を描く者、とかそんな意味?

ヨーロッパではオオバコやタンポポ、ヤナギなどを寄主植物としているようだ。

 

埼玉県でも一例、三国峠での記録がある。

 

ムラサキウスモンヤガ 北海道亜種 Cerastis leucographa leucographa (Denis & Schiffermüller, 1775)

亜種ということで同記事に配してみる。北海道で採れたムラサキウスモンヤガだ。

幕に飛来するより同行したSくんのネットによって採れる個体の方が多かった。僕のライトに飛来したのは5程度だったが、

Sくんは20ほどネットインさせていた。

210504
【成虫♂写真】20210504 北海道

 

確かに本州産とは明らかに色味が違う。これは同種と思えない。

ここで採れたムラサキウスモンヤガはすべてこのような色味であった。

なお、北海道産はヨーロッパの名義タイプ亜種に含まれている。

 

北海道産・本州産にも和名の〇〇亜種というものは先述の記載論文には記されていない。

本ブログでは便宜的な亜種名を使うこととした。

 

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タカネモンヤガ 
Xestia wockei aldani (Herz,1903)

タカネの名を冠する高山モンヤガ。

高山蛾と呼ばれるモンヤガの中でも、標高が高めの場所に生息する。おおよそ2500m以上ではないだろうか。

自ずと生息域は狭く、記録があるのは飛騨山脈と八ヶ岳のみである。

 

もちろんそんな高山モンヤガ、憧れないわけがない。とはいえ車横付けで採れる場所はないのだ。

そんな難関種に意を決してチャレンジしてきた。

現地は標高2700m。真夏でも夜は10℃を下回る。充分な登山の用意をして出かけた。

初回は甘く見ていたのもあって途中で断念。二度目のリベンジでようやく生息域へ行くことができた。

なお、生息地周辺は特別保護地域がある。予め地域の場所を確認しておかないと大変なことになる。

 

日没直後から点灯するも、飛んでくるのは【コキマエヤガ】ばかりだ。ひとつ【アルプスクロヨトウ】が飛んできたくらいか。

1時間ほどするとポツポツ【ウスグロヤガ】なども飛んできた。しかし飛来する蛾の9割はコキマエヤガ。

21時を過ぎると幕はコキマエヤガに占拠されている。蛾の飛来は悪くない。しかしアルクロ以外の高山蛾がいっこうに飛んでこない。

気温は10℃あるかないか。風も強くなってきた。防寒具を着ても寒い。

 

・・・正直心が折れてきた。しかしここは山の上、帰ろうにも帰れない。我慢の時間が続く。

 

22時を過ぎた。ようやく【ダイセツヤガ】がひとつ飛んできてテンションが上がったが、蛾の飛来がほとんどなくなってきた。

所詮こんなものか、やはり僕はダメだなぁ… と諦めモードになった僕の脚にヤガが飛来した。

 

どーせコキマエヤガだろ…と期待もせず見てみる。

 

翅をバタつかせてはいるものの、明らかにコキマエヤガではなかった。今日初めて飛来する蛾だな…?なんだろう。 

ライトに照らされたバタつく翅は一瞬、【カギモンヤガ】のように見えた。そんなはずはない、カギモンヤガは春の蛾だ。じゃあなんだこれは…

 

 

そう思った瞬間、全身に鳥肌が立つのを感じた。脳より先に身体が反応した。

 

 

「まさか…!」

 

 

そう、飛来したのだ。待ち焦がれた高嶺の華が。

Photo_20210202033601
【成虫♂写真】20200801 岐阜県

 

いつもなら「うああああ!」とか叫んでしまう僕であるが、この時は言葉が出なかった。

「・・・・・・ッ!!!!!」 こんな感じである。

高嶺の華がこの僕に微笑みかけてくれたのだ。挙動不審になるのは仕方ないだろう?

 

この後、1時まで点灯したがタカネモンヤガの飛来はひとつだけであった。

ひとつの飛来、というのはもしこれが来なかったら~と考えてしまうせいか、とても愛おしい存在になる。

このタカネモンヤガが2020年、一番の成果であったことは間違いない。

 

幼虫の寄主植物は不明。八ヶ岳産はもっと黒くなるらしい。次回の目標である。

種小名はwockei (ウォッケイ)。

ドイツの昆虫学者、マクシミリアン・フェルディナンド・ヴォッケ  Maximilian Ferdinand Wocke(1820-1906) への献名と思う。

日本産は亜種 aldaniとされる。

 Imc00170

タカネモンヤガ  Xestia wockei aldani male

岐阜県 Aug. 1,2020/Masahiro IIMORI leg.(IMC00170)



 

 

 

 

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アトジロアルプスヤガ
 Xestia sincera (Herrich-Schäffer, 1851)

 

【アルプスヤガ】と言えば高山蛾を代表する種である。

本種はアトジロアルプスヤガ。アトジロ…後翅が白いアルプスヤガの意であるが、あまり似ているとは思わない。

高山蛾と呼ばれる一群は何種か存在するが、この蛾はイマイチ高山性なのかどうかハッキリしない。

日本では採集できる場所は標高こそ2000mを超えた箇所であるものの、海外での寄主植物はトウヒとなっており亜高山帯に生育する植物である。

高山蛾、と呼ぶことには少し抵抗もあるかもしれないが、僕は高山蛾と呼びたいのだ。 

 

 

本種は鱗翅学会発行の「やどりが」でシリーズ化されていた「日本の珍しい蛾」にも名を連ねる珍蛾でもある。
枝恵太郎,1999.日本の珍しい蛾-12-アトジロアルプスヤガ.やどりが (180):36

 

 

そんなアトジロアルプスヤガに出会うことなんてあるのだろうか、と思っていた。

しかし、蛾仲間の鉄人monroe氏がまたやってくれた。アトジロアルプスヤガを見つけてしまったのだ。翌年僕はそのポイントへ向かった。

僕のようなへなちょこでも行ける場所だ。しかし、行った時間は雷鳴轟く土砂降り。とてもじゃないがライトを点灯するような状態ではない。

これはダメだな、徒労か…と諦めていたところ…

 

 

いたのだ。建物の窓の隙間に。

 

「あぁっ!!?」

 

思わず声が出た。高山の白い貴婦人は逃げることなく撮影に応じてくれた。

まるでシャクガのようなモンヤガ。これは高山蛾だ。間違いない。

 

「ありがとうございます」

 

おもわず口に出た。

僕は誰にお礼を言ってるのだろう。

 

もちろん、鉄人monroe氏に対する感謝の意もあった。

それに加え、この美しい蛾と出会えたこの瞬間に思わず出た言葉なのかもしれない。

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【成虫♂写真】20190726 静岡県

人づてに「アトジロはすぐ背中がハゲちゃうんだよ」と聞いていた。

ところがどうだ、この個体は美しいままだ。こんな美麗な個体に出会えたことにはやはり感謝である。

 

いつの間にか雨は止んでいた。大きな成果を得て満足気に歩いている僕の目の前をヒラヒラ舞う蛾が横切った。

 

「いた!」

 

なぜか僕は確信していた。飛んでいるのに、まだ一個体しか見ていないのに。

それがアトジロアルプスヤガだと脳が瞬時に判断した。

追われた蛾は逃げもせずふわりと僕の3m先へ舞い降りる。

ほら、アトジロだ。しかもまた綺麗な個体。

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【成虫♂写真】20190726 静岡県


この後、一晩中歩いたが結局二個体と出会うに留まった。だがそれでも満足だった。僕はアトジロアルプスヤガを見たのだ。

 

種小名はsincera (シンケラ)
イタリア語やスペイン語で誠実な、という意味があるようだ。

 

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アトジロアルプスヤガ Xestia sincera male

静岡県 July 26,2019/Masahiro IIMORI leg.(IMC00166)

 

 

採集地は特別保護地区に囲まれた箇所である。
事前に充分な確認を行い、無意識に特別保護地区で採集をしないよう、充分注意せねばならない箇所だ。

 

ちなみに蛾といえば「みんなでつくる日本産蛾類図鑑」であるが…

ここに【成虫写真1】として掲載されているアトジロアルプスヤガはおそらくヤツガタケヤガの誤同定と思われる。

画像は産地が山梨の大弛峠となっているが、この画像以外の大弛(国師岳)産は文献を見ても、人づてに聞いても確実な記録が見当たらない。

ややもすると標準図鑑にも記述がある国師岳には産しない可能性があるのだ。もしこの近辺産のアトジロアルプスヤガをご存じの方はご一報いただきたい。

 

 

 

 

 

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ホソアオバヤガ 
Actebia praecox flavomaculata (Graeser, [1889])

同属の【オオホソアオバヤガ】とは違い、淡い緑色と赤い斑紋が美しい種である。

 

ざっと調べてみても北海道から九州まで記録があるようで、特に局地的な分布を示すようなことは書かれていない。

 

埼玉でも旧浦和市、小鹿野町、横瀬町、旧大滝村で記録されている。平地から山地まで幅広く生息していることが伺える。

 

こんな感じなので、数こなしていれば採れそうな気もするが…

 

 

これがホントに全く採れないのである。

 

 

 

僕は蛾類のなかでもモンヤガ亜科には力を入れている(と自分では思っている)

 

ライトに飛来すればスルーするわけはないのだ。

 

図鑑で見ると美しい種である。僕との相性が悪いのか…と思っていたのだが。

 

 

ネットで検索しても「本州産」の画像が殆ど見当たらないのだ。出てくるのは北海道産ばかりである。

 

おそらく唯一、Digital Moths of Japanに今から20年前、1998年5月採集の標本が掲載されているだけだ。

 

 

重鎮の蛾屋さんは口を揃えて言う。「昔はそれなりに採れたんだがね。最近採れないねそういえば」

 

どうも察するに急激に数を減らしている蛾のようだ。

 

それもそのはず、先に改訂された山梨県 レッドデータブック2018にて、新たに準絶滅危惧種として掲載されてしまったのだ。

 

 

そんなホソアオバヤガだが、つい先日SNSを介した知人が本州産の画像をアップしていたのを発見した。

 

即時に連絡を入れると、わざわざ再度採集して頂いたうえに後程お渡ししますという返答を頂いた。

 

知人のご厚意で思いがけず本州産のホソアオバヤガが手に入ることになった。

 

有頂天の僕は、数日後に引き取る約束をしたのち別件で採集に向かったのだが…

 

 

 

なんとそこで採れてしまったのだ。今まで採れなかったホソアオバヤガが。

 

 

Photo
【成虫♀写真】20181012 山梨県

まさかの飛来である。確かに知人が採集したのだから時期なのだろう。

 

ただ、今まで何年も採れなかった蛾である。ふと立て続けに採れてしまうというのは何か要因があるのだろうか。

 

日本での寄主植物はハマエンドウが記録されている。属名のActebia(アクテビア)は浜辺に棲むもの、という意があるようで、

海外では砂丘地帯などに生息する蛾のようだ。

 

 

種小名はpraecox(プラエコックス)。 ラテン語では患者、という意があるようだが、

標準図鑑にはその薄緑が早春を思わせることから「早い季節」という意でつけられている、と記述されている。

 

 

夏眠する蛾のようで、越夏後はやはり斑紋が薄い。これは是が非とも越夏前の個体にお目にかかりたいものだ。

 

 

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【成虫♀写真】20200609 茨城県

 

と思っていたら採れてしまった。まさに羽化したてと言わんばかりのビカビカな個体である。

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【成虫♀写真】20210522 静岡県

越夏前の個体であるが、茨城の個体に比べるとスレている感がある。

が、拡大するとスレているわけではなく、元々こういう色味のようだ。個体変異が大きいのだろうか?雌雄差?

210522

上記の個体を拡大。鱗粉がスレている様子はない。

腎状紋が大きく、ふたつのハートが微笑んでいるように見える。

この蛾を見つけると恋愛運が上がる縁起の良い蛾…とかにはならないかな?

Photo_20210523224301
ホソアオバヤガ Actebia praecox flavomaculata female

茨城県 June 9,2020/Masahiro IIMORI leg.



後翅が黒い。しかしこれは極東の亜種である A.p.flavomaculata に固有のもので、ヨーロッパの亜種は白っぽくなる。

 

 

 

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