« 2014年7月 | トップページ | 2014年9月 »

2014年8月

【0143】ミヤケカレハ
Takanea miyakei

オスは非常に発達した触角を持つカレハガの仲間である。

関東中部地方の高標高地では珍しくないが、見つけると気になる種である。

後翅の造形がまた面白く、静止時でも前翅からはみ出してしまう。

他とは一線を画したその姿を見ると、高標高地にいることを実感するのである。


Smiyake
【成虫♂写真】20100807 群馬県吾妻郡草津町大字草津白根国有林<標高2140m>

メスのフェロモンを感じ取るための触角、もちろんメスには必要ない。

メスの触角はオスと較べてしまうと普通極まりない。

S_3
【成虫写真】20100822 長野県茅野市<標高2120m>

メスは滅多に灯りに飛来しないようだが、この日は2メスが飛来した。

すぐそばで発生していたのだろう。

食草はコメツガが記録されている。確かにコメツガらしきものはすぐそばで生育していた。


以前はタカネカレハとミヤケカレハという二種だったがミヤケカレハ一種に統合された。

しかし近年、タカネカレハとされていたものが【オオミヤケカレハ】とされ、現在は二種になっている。

オオミヤケカレハは南方に生息し、やや大型のようだ。

埼玉でも奥秩父で記録がある。


種小名はmiyakei (ミヤケイ) 発見に携わった方の名前だろうと思うが文献が見当たらない。

【0142】シロオビハイイロヤガ
Spaelotis lucens

灰色の地色に白く線を描いた一見地味なモンヤガである。

渋めの美と言えばそう見えなくもないが、僕の印象は「知的な大人の美しさ」である。

主張しすぎず、かといって無個性でもない。控えめな主張で個を演出している。


S_2
【成虫写真】20140829 群馬県片品村丸沼<標高1400m>

あまり光源近くには飛来せず、離れたところで落ち着く という記述が標準図鑑にはあるが、

僕が遭遇した二個体はいずれも光源に近すぎず遠すぎず、いわば普通の場所で落ち着いていた。

どこを見ても「個体数は少ない」との記述があり、珍品の誉高い種であるようだ。


種小名の lucens (ルーケンス)はラテン語で「明るい」。他のスパエロチス属に比べ明るいということだろうか。

埼玉では三国峠の他、大洞川(正確な場所不明、大洞川林道700m~1100mか)や旧大滝村滝川といった高標高地で記録されている。

【0141】キミミヤガ
Xestia baja tabida

本州では亜高山帯に生息し、夏に発生するモンヤガである。

多食性で様々な草本が食草として記録されているが、、目にすることが少ない蛾のように思う。

薄茶色で地味系なその容姿はスルーの対象になりやすいのだろうか。


前翅前縁の外縁付近にトレードマークの黒紋がある。

地味種が多い中型モンヤガの中では個性があるほうだと思っているのだが・・・


S
【成虫写真】20140822 長野県南佐久郡佐久穂町<標高1620m>

この一帯では二桁のキミミヤガが見られた。

普段は見つけても一頭二頭のこの蛾の多産地なのかもしれない。


埼玉でも三国峠や入川林道の高標高地での記録がある。


以前はX. tabida という独立種であったが、現在はKononenko(2005)により大陸産X. baja の日本亜種となっている。

種小名baja (バヤ)は言語によって意味合いがかなり違う。

記載者のdenis&schiffermuellerがオーストリアに居住、発見もオーストリアであることからドイツ語の可能性が高い。

と思ったのだが・・・ドイツ語ではbajaというとハンガリーのバヤ市になるようだ。

しかしバヤ市由来なら接尾辞がつくはず。

そのバヤ市の由来はトルコ語で牡牛とのことだが・・・ そんなひねくれて名前つけるんかな。

他には 「降りてくる」(スペイン語)  「間違った」(ハンガリー語)  「嘘」(ポーランド語)

・・・記載年は1775。奇しくも第一回ポーランド分割の時期だ。ということはもしかするとポーランド語の「嘘」なのか。

1775というとハンガリーはまだオーストリア帝国領。ハンガリー語の「間違った」も捨てきれない。

もしくは言葉遊びなのか。「間違った」と「嘘」。何か記載時に嘘や間違いのトラブルがあったのか。

全て僕の勝手な妄想ではあるが・・・学名に込められたロマンを想像するのは楽しい。


しかし学名調べてて世界史を思い出すことになるとは思わなかった。

【0140】オオシロシタバ
Catocala lara

夏、関東近辺では主に山奥(標高1000m付近?)でひっそりと羽化している蛾である。

北海道ではド普通種の称号が与えられているが、本州では中々出会うことが出来ない蛾だ。

S
【成虫写真】20140821 栃木県那須塩原市<標高1100m>


下翅の鮮やかなカトカラ属の中でも大型の部類に入るのだが、【シロシタバ】よりは小型なのでややこしい。

黒地に白い筋がスッと入る後翅は【ムラサキシタバ】を彷彿とさせるが、紫のインパクトには及ばない。

しかし渋めの前翅と後翅のバランスが素晴らしく、翅を開いた時の総合的な美しさはカトカラ随一である。(と思っている)
S_2
【成虫写真】20140821 栃木県那須塩原市<標高1100m>

カトカラは後翅を見せてナンボと思っている。

故に中々良い写真が撮れないことも多いが、良い写真が撮れた時の嬉しさはまた格別である。

タイミングが良ければすぐ撮れるのだが・・・

このオオシロシタバも随分と苦戦した一枚である。


種小名はlara (ララ)。おそらくはローマ神話の妖精ララであろう。

ララは黙ってれば美しいが、おしゃべりが過ぎて最高神ユピテルに舌を抜かれたという逸話を持つ。

今でもローマではお化け的な扱いで子供を大人しくさせるのに使われるらしい。あまり良いイメージではないなあ。


食草はシナノキ属が知られている。

しかしシナノキ属のないところでも記録があるようで、広範囲の移動をしているようだ。

埼玉では三峰と三国峠に記録があり、いずれも標高1000m以上だ。

【0139】クロヤガ
Euxoa nigrata

亜高山に生息する真っ黒なモンヤガである。

黒いその容姿は夜の闇に溶け込むためのものかと思いきや、昼間にも吸蜜しているのを観察できる。

夜にも吸蜜しているのを見かけるため、常にお食事タイムな蛾だ。


ネット上では珍品扱いされていて青森宮城秋田の各県ではRDBに記載されている。

しかし、長野県に限ればそこまで言うほど少なくはないと思う。

生息地のアザミを見回れば見つけることは難しく無いはずだ。

S_2
【成虫写真】20140822 長野県南佐久郡佐久穂町<標高1620m>

灯火にも飛来するが、本種に狙いを定めるならアザミを見まわったほうが早い。

僕の経験で灯火に飛来したのは一頭だけだが、アザミで見つけたクロヤガはゆうに二桁を超える。

S_3
【成虫写真】20150814 長野県北佐久郡立科町<標高1780m>

こちらは昼間確認したクロヤガ。20くらいの個体が確認できた。

埼玉では高標高地三国峠での記録があるだけだ。埼玉ではド珍品だと言っても良いかもしれない。

食草はまだわかっていないようだ。


種小名はnigrata(ニグラータ)。ラテン語で nigra=「黒」。 そのまま翅色を評しての命名であろう。


北海道のものは以前まで同種とされていたが、現在は大陸のEuxoa nigricans と同種とされ、

【キタクロヤガ】という和名がつけられている。(日本産は亜種 E. nigricans ishidaeTINEA 21(3), 113-118, 2010


【0138】ヤツガタケヤガ
Xestia yatsugadakeana

高山蛾、と呼ばれる蛾のひとつである。

ヤツガタケヤガ、というのは八ヶ岳から取った和名だと想像に難くないが、八ヶ岳に固有なわけではない。

中部地方の山地、2000m付近に生息していて車で行けるような場所でも記録がある。

高山蛾の中でも出逢いやすい種である。 時期は8月の初~中旬であろうか。


今まで出会ったすべての個体(8個体)は幕まで飛来せず、地面に止まっていた。

S
【成虫写真】20140807 山梨県山梨市<標高2300m>

点灯後、10分ほどで飛来したこの個体はド完品。羽化したての個体であろう。


赤茶色の翅色に目立つ白い環状紋。翅を重ねて止まるところは見たことがない(すぐ〆てしまうからか)

スレると色が落ちてしまうが、この赤茶色がヤツガタケヤガの特徴だと思っていた。


この個体に逢うまでは。

S_2
【成虫写真】20140807 山梨県山梨市<標高2300m>

ド完品である。

しかし色が全く違う。まさか【アトジロアルプスヤガ】?と戸惑ってしまった。

比べると上記のヤツガタケヤガと同じ模様である。ヤツガタケヤガは赤茶色だけではなかったのだった。

食草がわかっていないが、【アルプスヤガ】と似たような場所で採集されるため

近いもの(アルプスヤガはエゾノツガザクラ等のツツジ科)があるのではないかと思っている。

埼玉ではアルプスヤガの記録はあるものの、ヤツガタケヤガの記録はない。

周辺の生息状況から考えるといてもおかしくはないと思っているのだが・・・


以前はヤツガ「ダ」ケヤガという和名だったが、標準図鑑ではヤツガ「タ」ケヤガと変更になっている。

種小名がyatugadakeana (ヤツガダケアナ)。そのまんまである。和名と違い、ヤツガ[ダ]ケであるため紛らわしい。

【0137】ヘリグロエダシャク
Bupalus vestalis vestalis

翅を閉じて止まるエダシャクの仲間だ。

「ヘリグロ」とは翅の縁が黒いことからつけられたであろう和名だが、静止時にその姿を確認することはできない。

展翅して初めてヘリグロの名がしっくりくる種である。

北海道と本州に生息しているようだが、本州ではある程度の標高がないと見ることができないと思う。

僕が見た個体はいずれも標高2000mオーバー。

実際にはそこまでの標高は必要ないと思われるが・・・ 北の蛾であることは間違いなさそうだ。

S2
【成虫♂写真】20140719 山梨県山梨市<標高2230m>

静止状態の♂であるが・・・

生態写真がネット上で見つからない。 以前知人に見せてもらった写真で頭には入っていたが、

翅を閉じて止まるという習性はこうして生で見るまではわからないと思う。

確かに図鑑を見ればそういった記述があるものの、認識度は低いのではないだろうか。


これだとヘリグロかどうかわかりづらいのでライトに集まり飛翔してる個体を撮影してみた。


S_2
【成虫♂写真】20140719 山梨県山梨市<標高2230m>

こうしてみると和名ヘリグロエダシャクにも納得ができる。

知人の話だと昼間も飛翔してる姿を見るという。図鑑にも昼飛性と記されているが、夜のライトにも集まる。

この日も複数の個体が集まってきた。


食草は詳細に確認されていないようだがマツ科との推測がある。

僕が撮影したポイント周辺はシラビソが多い。この辺りではシラビソを食草としているのかもしれない。

種小名はvestalis(ウェスタリス)=ウェスタの処女。古代ローマにて信仰されていた女神ウェスタに仕えた巫女たちのこと。

祀られた火を絶やすさないようにすることが仕事だったという。

その名の通り、処女であることが条件とされていたようだ。純潔な従者というイメージ。

確かにひらひらと灯りに集まる白いこの蛾はその名にふさわしい。良い名である。


埼玉でも秩父市矢竹沢(おそらくは入川林道か)で記録がある。

« 2014年7月 | トップページ | 2014年9月 »

無料ブログはココログ