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2015年6月

【0185】コクシエグリシャチホコ
Odontosia marumoi

本州の極一部、飛騨、八ヶ岳、秩父山地、日光山地の高標高部にのみ生息するという蛾である。

ダケカンバを食樹とするため、ダケカンバが自生する場所に生息地域が限られているものと思われる。

発生も梅雨時期の初夏に限られ、採集のタイミングを逃しやすいこともあり得にくい蛾である。

岐阜の有名産地では多産するようだが、他の産地ではあまり得られていなかった。


数年前、ネット上に公開されている文献を読み漁っていたところ、この地域での記録があることがわかった。

しかし、採集地は2000m付近となっており車を横づけして採集できるような場所ではなかった。
群馬県立自然史博物館,2013.日光白根山・錫ヶ岳周辺(第1年).良好な自然環境を有する地域学術調査報告書:55-67.

ただ、ダケカンバの分布は国道沿いでも確認していたため、コクシエグリの生息が見込めるのではないかと思っていた。

読みは当たった。最初のトライから数年を要したが、国道沿いで採集することができた。

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【成虫♂写真】20150613 群馬県片品村<標高1630m>

蛾をよく見てる方は【シーベルスシャチホコ】じゃないのか?と思われるかもしれない。

確かにシーベルスシャチホコは個体変異が多く、上に添付した画像のような個体がいてもおかしくない。

発生時期の違いもあるが、シーベルスとの決定的な差異点は触角だ。

コクシエグリは♂でも触角がシーベルスのように発達しないのだ。シーベルスの♀よりは発達するが♂よりは発達しない。

まあコクシエグリが出るころにはシーベルスはもう姿を消しているので、実際に迷うことはないと思われる。

しかし、シーベルス以外にも Odontosia 属で似た種類がおり、そちらとの分類では紆余曲折あったようだ。
従来キテンエグリシャチホコとされていたものが現在コクシエグリシャチホコと【ホッカイエグリシャチホコ】に分かれている。
細かい分類の歴史を調べてみたが、とても手に負えない。いつの日か解明できたらまた追記しようと思う。


標準図鑑には

最初に1940年7月2日奥秩父山地国師岳で得られ(澤田秀三郎採集),
丸毛信勝によりO. carmelita Esper,1799と同定されコクシエグリシャチホコと称された.

小林秀紀,2011.コクシエグリシャチホコ.岸田泰則(編),日本産蛾類標準図鑑 2:121.学研教育出版,東京.
とあるが、その原文を漁ってみると

 Odontosia carmelita ESPER .コクシエグリシヤチホコ
昭和5年7月2日山梨縣國師岳にて澤田秀三郎氏1 對を採集したり。
丸毛信勝.1933.日本産シヤチホコガの1新種及び1未録種 昆蟲6:293

となっている。報文自体が1933(昭和8年)に発行されているので、これは1930年7月2日の誤りと思われる。


種小名はmarumoi (マルモイ)。上記の最初に報告した丸毛信勝氏のことであろう。


埼玉での記録があるという話もチラと聞いたが、埼玉県昆虫誌や寄せ蛾記、蛾類通信、誘蛾燈、蝶と蛾、やどりがには報告を見つけられなかった。

【0184】センモンヤガ
Agrotis exclamationis informis

幼虫は畑を荒らす農業害虫であり、北海道ではさほど珍しくない蛾である。

しかし、本州では標高が高めのごく一部にしか生息しておらず、なかなかお目にかかれない。

僕自身は3度ほど出逢ったことがあるだけだ。

個体さが大きいが、美しい個体ははっきりした斑紋、濃・淡・濃の組み合わせ、

さらに濃の中でもグラデーションがあり非常に美しい。そして(本州では)レア度高め。俗に言う「エロい蛾」である。

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【成虫♂写真】20150604 片品村丸沼<標高1400m>

【カブラヤガ】に似ているが、センモンの名の由来であろう、剣状紋が発達しているのが本種の特徴だ。

大きさもカブラヤガより一回り大きい。


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【成虫♂写真】20110723 草津町大字草津白根国有林<標高1860m>

しかし個体によっては平凡な蛾になってしまうのだが・・・ それだけに好みの色彩の個体が来ると嬉しい。


種小名はexclamationis(エクスクラマチオニス)。これはピンときた。おそらく!(エクスクラメーション)のことだ。

前述の剣状紋と腎状紋が!マークを形成している(ように見える)。ここから名前をとったのではないか?

埼玉での記録は三国峠の一件のみとなっている。

【0183】ホシベッコウカギバ
Deroca inconclusa phasma

♂と♀で少し斑紋の濃淡があるが、透き通る翅が美しいカギバガの仲間である。

普遍的に分布するヤマボウシなどを食樹とし、年3化と春から秋まで、平地から山地まで見られる蛾のようだが・・・

私的遭遇率は低めである。それだけに遭遇した時は嬉しく思う蛾のひとつだ。


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【成虫♀写真】20150530 高萩市花貫<標高370m>

♀は♂より薄く、儚さを感じさせる美しい蛾である。♀ではあるが、櫛のような触角が目立つ。

♂は何度か遭遇しているはずだが、単体では撮影していなかったようだ・。次回以降の課題としよう。

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【成虫交尾写真】撮影日時不明 那須塩原市青木<標高350m>

場所の記憶はあり、2008年頃に撮ったはずだがどうにも元画像が見つからない。

縮小保存した画像はあるものの日付で分けた元画像フォルダには見当たらないので正確な日付は不明とした。

種小名はinconclusa (インコンクルサ)。スペイン語で「未完」の意があるようだ。

薄く透けた斑紋はまだ完成していない、ということだろうか。


以前、この種は♂と♀が別種とされており、♂はホシベッコウD. inconclusa

♀がウスボシベッコウD. phasma とされていた。

しかし井上(1955)によりウスボシベッコウは全て♀ということがわかり、同種とされた。

さらには第一化の大型個体も別種D.decisa とされていたようでこれも併せて同種とされた。
井上寛,1955.蛾類の学名覚え書き(5 ).蝶と蛾 6:12.

この時点ではインド原産のD. inconclusa とは別種とされ、D. phasma の学名が充てられていた。

現在はD. inconclusa の亜種とされ、phasma の名が亜種名として残っている。


埼玉では秩父や皆野町といった西部での記録がある。

【0182】ヒメハイイロカギバ
Pseudalbara parvula

他のカギバガとは少し違った姿形、独特な止まり方をする。ちょうど親指の爪のような大きさと形だ。 

カギバガの中ではかなり小さい方で、他種に見間違うことはないと思う。

クルミの仲間を食樹とし、春から初秋まで山間部の灯下採集ではよく見る種だ。

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【成虫写真】20150604 片品村丸沼<標高1400m>

ヒメ〇〇〇、とヒメという冠詞が和名につく昆虫は対象の〇〇〇より小さい、ということが殆どである。

しかしこのヒメハイイロカギバは対象となるハイイロカギバという和名の種が存在しない。

Pseudalbara 属は他に1種、P. fuscifasciaという種が中国に分布しているがこれが倍くらい大きいのである。

この種がハイイロカギバ、というころになるのだろうか?

しかし和名であるからには日本にいるものを基準とするのではないかと思う。

中国の種をオオハイイロカギバとすればいいような気もするが…

ヒメはカギバにかかっていてカギバガのどの種より小さいという意味だろうか?

真意は命名者に聞いてみるしかないのかもしれない。


種小名のparvula(パルブラ)。ラテン語で「少し」の意味。

「小さい」ならわかるが「少し」とはちょっと不可解である。翅頂に少し見える模様のことを指しているのだろうか?

>>>>>>>>>160315追記

yyzz2さんより「とても小さい」 の意味であるとご教示いただいた。(平嶋,『生物学名辞典』,p.222)

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埼玉での記録は西側に偏っているが、つい先日さいたま市の公園で採集できた。

【0181】エゾスズメ
Phyllosphingia dissimilis dissimilis

後翅がはみ出す特異な形状をしたスズメガの仲間である。

同じような形状をしたものに【ノコギリスズメ】がいるが、そちらは灰色一色。違いはすぐに判ると思う。

「エゾ」というネーミングは北海道の旧名、蝦夷から来てると思われるが、寒冷地に特有なわけではなく

九州地方まで記録がある。特にエゾらしさは見当たらない。

エゾ〇〇という種は概してそんな種が多い。もちろん北海道特有の種もいるのだが・・・


新鮮な個体は紫がかってゾクっとするほど美しい。しばし惹きこまれて眺めてしまう。

成虫は5~7月の年一化。初夏の蛾、といったイメージだ。


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【成虫♂写真】20150520 嬬恋村鎌原<標高1200m>


アップで撮ると愛らしい顔をしている。口吻は退化しているようだ。

裏側が意外と派手なのがわかる。

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【成虫写真】20090523 安中市松井田町坂本<標高600m>


交尾は♀が上になる。この辺は蛾の基本パターンだ。
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【成虫交尾写真】20100619 秩父市三峰<標高1000m>

種小名はdissimilis(ディッシミリス)。ラテン語で「異質の」という意味だ。

その特異な外見を評してのことだと想像に難くない。

埼玉では入間市以西に記録が偏っており、最近まで山地の種だと思っていたのだが・・・

つい先日、さいたま市桜区の公園でも採集できた。食樹のオニグルミがあれば生息は可能なようだ。

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