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【0200】カバシタムクゲエダシャク
Sebastosema bubonaria

 
 「カバシタムクゲエダシャク」

蛾屋でなくとも名前くらいは聞いたことがあるかもしれない。

♀は1992年、♂に至っては1970年以来ずっと見つかっていなかったまさに「幻の蛾」である。

2008年からフユシャクを始めた僕であるが、半分UMA扱いのこの蛾を真面目に探しに行ったのは一度きりだ。

痕跡すら見つけることのできなかった僕らは、それ以来カバシタカバシタと言うものの殆ど何もしていなかった。


諦めていたのだ。


しかし、あの2016年3月17日にすべては一変した。


昼前、親交の深いY氏から一報が入った。

「やった!!」の文字と共に送られてきた画像に写っていたのは紛れもない、毒瓶に入っているカバシタムクゲの♂であった。

僕らは色めき立った。蛾LOVE氏に連絡を取り、次の日に向かうことにした。

翌日は金曜日であったが、もちろん仕事などしている場合ではない。


2016年3月18日、僕らは彼の地へ向かった。ミノムシ研究者のN氏、むし社のK氏も一緒だ。

彼の地には昨日Y氏と一緒に採集をしていたフユシャクの第一人者、中島秀雄氏がいた。

5人で彼の地を歩く。


8時45分。橙色の飛翔体が目の前を飛ぶ。

「いた!あれだ!!」口々に叫ぶ。走る。振り逃がす。

その後も橙色の飛翔体は僕らを嘲笑うかのように飛び回る。


速い。とても追いつけない。

ネットなどほとんど振らない僕らに採れるシロモノではない。

10数個体を見るも5人のネットに収まった個体はいなかった。


11時を過ぎると飛翔体もなくなった。一行にあきらめムードが漂い始めたその時である。


「おーい!!!!」


50m先くらいの林縁部から中島氏の声がする。というかこんなに大きい中島氏の声を僕は今まで聞いたことがなかった。

「採ったか!?」

一行は慌てて中島氏のもとへ駆け寄る。


満面の笑みを湛えた中島氏が指さした先に・・・  いた。

P3181966
【成虫♀写真】20160318

いた。本当にいた。幻ではなかった。

人は興奮しすぎると立てなくなる。僕はこの時知った。脚が震えるのだ。

皆で記念写真を撮り、談笑する。素晴らしいひとときだ。

大きな、とても大きな収穫を得た僕らは林内を歩く。

蛾LOVE氏がいきなり僕を指さす。「ああああああ!!!いたああ!!!」

振り返るとそこに・・・ いた。

P3181981_2
【成虫♀写真】20160318

まさかの二個体目。しかしこれは悔しかった。僕のすぐ後ろにいたのだから…


卵を皆で持ち帰り育てることに。

飼育の顛末はこののち発行された日本の冬尺蛾

中島 秀雄 · 矢野 高広,2016.日本におけるカバシタムクゲエダシャクの再発見について.蛾類通信 (278):65-67
中島秀雄・阪本優介・松井悠樹・中 秀司, 2017,カバシタムクゲエダシャクの幼生期, TINEA 23(6)

もしくは蛾類学会コラム7 「なに食ってるか分からない蛾」を飼育して実験材料にする(1) 幻の蛾、カバシタムクゲエダシャクをご一読願いたい。


一年後、各人の家庭で続々と羽化するカバシタムクゲエダシャク。

我が家でもいくつかの個体が羽化した。実は今まで♂と♀が同一種である、という確証はなく推定であった。

この時初めてカバシタムクゲエダシャクの雌雄とされていた蛾は同一種だと確定したのだ。

P3060335
【成虫♂写真】飼育羽化

2017年3月、再び僕らは彼の地にいた。

今度は処女♀を持ち、コーリングに寄ってきた♂を採る作戦だ。

あれだけ苦労したのが何だったのかのように♂はたくさんやってくる。

Kabashitapea
【成虫交尾写真】20170321

野生の♂も採集することができた。


そしてまた一年後、僕は自分の手でようやく♀を採集することができた。
P3152916
【成虫♀写真】20180315

幻の蛾は眠りから覚めた。知見も増えた。これからは新産地も発見されるに違いない。

しかし幻の蛾がまだ幻の時に出会えたあの興奮、足に力が入らなくなったあの興奮は一生忘れないであろう。

僕の蛾人生に刻まれた出来事であることは間違いない。

種小名はbubonaria(ブボナリア)。まったくもってわからない。それでいい。

学名の意味くらいは謎のままでいい。


埼玉では一例、さいたま市田島にて♀の記録がある。次は埼玉での再発見を成し遂げなくてはいけない。

まだまだ僕とカバシタの付き合いは続きそうだ。

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コメント

♀の採集おめでとうございます!
生態写真を見て、後翅の夕日のような色が、こんなにもきれいなのかと気づきました。♂の美しさもさることながら、写真を拝見すると、♀にも変異があって面白そうです!
いつか自分もチャレンジしに行こうと思います。

ありがとうございます!
♂の後翅は本当に美しいですね~

今年はもう遅いかもしれませんが、是非チャレンジしてください^ ^

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