タカネモンヤガ Xestia wockei aldani (Herz,1903)
タカネの名を冠する高山モンヤガ。
高山蛾と呼ばれるモンヤガの中でも、標高が高めの場所に生息する。おおよそ2500m以上ではないだろうか。
自ずと生息域は狭く、記録があるのは飛騨山脈と八ヶ岳のみである。
もちろんそんな高山モンヤガ、憧れないわけがない。とはいえ車横付けで採れる場所はないのだ。
そんな難関種に意を決してチャレンジしてきた。
現地は標高2700m。真夏でも夜は10℃を下回る。充分な登山の用意をして出かけた。
初回は甘く見ていたのもあって途中で断念。二度目のリベンジでようやく生息域へ行くことができた。
なお、生息地周辺は特別保護地域がある。予め地域の場所を確認しておかないと大変なことになる。
日没直後から点灯するも、飛んでくるのは【コキマエヤガ】ばかりだ。ひとつ【アルプスクロヨトウ】が飛んできたくらいか。
1時間ほどするとポツポツ【ウスグロヤガ】なども飛んできた。しかし飛来する蛾の9割はコキマエヤガ。
21時を過ぎると幕はコキマエヤガに占拠されている。蛾の飛来は悪くない。しかしアルクロ以外の高山蛾がいっこうに飛んでこない。
気温は10℃あるかないか。風も強くなってきた。防寒具を着ても寒い。
・・・正直心が折れてきた。しかしここは山の上、帰ろうにも帰れない。我慢の時間が続く。
22時を過ぎた。ようやく【ダイセツヤガ】がひとつ飛んできてテンションが上がったが、蛾の飛来がほとんどなくなってきた。
所詮こんなものか、やはり僕はダメだなぁ… と諦めモードになった僕の脚にヤガが飛来した。
どーせコキマエヤガだろ…と期待もせず見てみる。
翅をバタつかせてはいるものの、明らかにコキマエヤガではなかった。今日初めて飛来する蛾だな…?なんだろう。
ライトに照らされたバタつく翅は一瞬、【カギモンヤガ】のように見えた。そんなはずはない、カギモンヤガは春の蛾だ。じゃあなんだこれは…
そう思った瞬間、全身に鳥肌が立つのを感じた。脳より先に身体が反応した。
「まさか…!」
そう、飛来したのだ。待ち焦がれた高嶺の華が。
いつもなら「うああああ!」とか叫んでしまう僕であるが、この時は言葉が出なかった。
「・・・・・・ッ!!!!!」 こんな感じである。
高嶺の華がこの僕に微笑みかけてくれたのだ。挙動不審になるのは仕方ないだろう?
この後、1時まで点灯したがタカネモンヤガの飛来はひとつだけであった。
ひとつの飛来、というのはもしこれが来なかったら~と考えてしまうせいか、とても愛おしい存在になる。
このタカネモンヤガが2020年、一番の成果であったことは間違いない。
幼虫の寄主植物は不明。八ヶ岳産はもっと黒くなるらしい。次回の目標である。
種小名はwockei (ウォッケイ)。
ドイツの昆虫学者、マクシミリアン・フェルディナンド・ヴォッケ Maximilian Ferdinand Wocke(1820-1906) への献名と思う。
日本産は亜種 aldaniとされる。
タカネモンヤガ Xestia wockei aldani male
岐阜県 Aug. 1,2020/Masahiro IIMORI leg.(IMC00170)
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