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ヒメカクモンヤガ Chersotis deplanata (Eversmann, 1843)

 

モンヤガ亜科のなかでも、国内における確認例が極めて少なく幻とされていた蛾である。

どれくらい幻かというと、2020年時点で

1♀,碓氷峠 1922年8月22日

1♀,北軽井沢 1959年7月28日

2♂♂1♀,菅平高原 1962-63年8月下旬

1♀,利尻島 2004年8月19日

1♂,霧ヶ峰 2012年9月2日

これらの7個体が記録されていただけであった。(その後、霧ヶ峰で追加記録がある)某ヒゲの蛾よりも少なかったのだ。

日本の冬夜蛾に倣って★をつけるとすれば7~8は堅いであろう。

環境省レッドリスト2020において「絶滅危惧IB類 (EN) 」に指定されているが、7月から8月に出るようだ、としかわかっていなかった。

 

利尻島を除けば特に行くことが難しい場所ではない。北軽井沢だの碓氷峠だの、僕は何度も通っていて車で横付けできる場所である。それでこの少なさ。まさに幻である。

軽井沢周辺をホームグラウンドとしてモンヤガフリークと自称する以上、どうにかして墜とせないかと考えていた。

 

2021年,8月21日。

僕は上信越高原の既知産地にほど近い草原に行ってヒメカクモンヤガを狙ってみることにした。

過去記録を見ると8月下旬が多いからなんとなく、既知産地に近いし残っていたらワンチャン・・・ と正直あまり期待もしていなかった。

現地に着くと、予定していたポイントには車が停まっていた。どうやら車中泊のようだ。

これでは屋台を建てて灯火採集などできない。仕方ない、場所を変えるか...

 

少し降りたところに花がたくさん咲いている場所を見つけるが、ちょっと灯火ができるような場所ではない。

今日は諦めかな・・・ そうだ訪花してるかもしれない、今日は花を見回ってみよう。

そんな感じでルッキングに徹することにした。

 

1時間ほど歩いただろうか、20時頃である。

 

草の茎に小さい蛾が止まっていた。どうせショウブヨトウかな、と確認する。

 

色が違う。 灰色だ。

 

  な   ん   だ   こ   れ  ?

 

ヒメカクモンヤガの生態写真は今までに撮影されていない。

いくつかの標本写真があるが、スレたものも多くなんとなく茶褐色の蛾だと思っていた。

DMJに掲載された標本写真の印象が強かったのだろう。

斑紋はヒメカクモンヤガに見えた。まさか生きてるときはこの色なのか…!

身体中を鳥肌が襲った。良く見ようと顔を近づけた途端、無情にもその灰色の蛾は飛び去った。

 

痛恨のミスである。

 

痛恨どころではない。40も半ばを超えた中年のオッサンが泣きそうになった。

 

これはもう採るまで帰らないと決めた。

 

しかし探しても探してもその蛾は現れない。

 

22時を過ぎた。花を見始めて3時間以上が経過している。

さすがに心が折れそうになるが、帰るわけにはいかない。ここには間違いなくヒメカクモンヤガがいるのだ。

 

いるのだ・・・ いるよなぁ・・・ あれ本当にヒメカクモンだったのかなぁ・・・

 

そんな悪魔のささやきが聞こえてくる。もう訪花してる蛾なんてほとんどいない。

また明日、明後日の仕事に響くけどちょっと無理してやってみるか・・・

そんなことを思い始めていた。

 

クロヤガやシロモンヤガはオミナエシやハギにやたらと来ている。マツムシソウにもよく来ていた。

必然とそんな花をずっと見回っていた。

 

ふとツリガネニンジンを見た。これまでそういえばツリガネニンジンはあまり注目していなかった。

小さい蛾が吸蜜している。あれ、もしかして・・・ これは・・・!

 

いた。

やはりそうだ、ヒメカクモンヤガだ。

なるほど、お前はこんなとこにいたのか・・・

 

感動よりも安堵が先に来た。時間が遅いからなのか動きが鈍い。

これは写真が撮れるな、と思い写真を撮る。

Photo_20231127004301
【成虫♂画像】20210821 長野県

ところが写真を一枚撮ったらフラッシュに反応したのか羽ばたきだした。 こうなるともう捕獲優先である。

 

捕獲後、画像を確認したら暗い。それにスレてるなぁ笑 

 

でも、ヒメカクモン採った!

 

 

そこから二年間、若手蛾屋と協力して調査を行い、本種は8月下旬に発生すること、ツリガネニンジンに対し嗜好性が強いことなどが判明した。

その成果は報文として発表したので興味がある方はそちらを一読してください。

飯森政宏・藤井才暉・川島育海・神澤由己・安西稔,2023.長野県上信越高原におけるヒメカクモンヤガの採集記録.蛾類通信(307):204-206.

220819
【成虫♂画像】20220819 長野県

ツリガネニンジンへ吸蜜へ来ることがわかればもう見つけるのは容易い。ヒメカクモンヤガは時期に行けば見られる蛾になった。

ヒメカクモンヤガは幻ではなくなったのだ。 カバシタと並び、僕の蛾人生に大きな出来事として刻まれた。

 

他にも産地があるハズ。またどこか違う場所で会いたい。

Fig1_20231127005501

ヒメカクモンヤガ  Chersotis deplanata  male

長野県 Aug. 19,2022/Masahiro IIMORI leg.

Photo_20231127004302 Photo_20231127004303

ヒメカクモンヤガ  Chersotis deplanata  male genitalia
長野県 Aug. 21,2021/Masahiro IIMORI leg.

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