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キョウチクトウスズメ Daphnis nerii (Linnaeus, 1758)

 

南方に生息するスズメガである。1960年に奄美大島で最初に発見されて以降、

南西諸島では定着して春から成虫が出現するが、九州以北では未だ冬を越すことができず偶産蛾の域を出ない。

とある研究によると最高気温が10℃以下の日が続くと蛹から成虫に羽化する確率が著しく低下するようだ。

ヨーロッパではアフリカから毎年飛来することが知られており、大移動をして生息地を拡大しようとする習性がある。

幼虫はその名の通り人間に猛毒のキョウチクトウ、ニチニチソウなどを食べて育つ。

 

本州では1998年に静岡と和歌山で記録されたが、関東地方本土域では2010年に千葉県館山市で幼虫が記録されたのみとなっていた。

しかし、ネット上には東京でキョウチクトウスズメの発生が疑われる情報が以下のように投稿されたことがあり、

大阪市立自然史博物館 質問コーナー - キョウチクトウスズメについての質問

関東にも少ないながら飛来していることを窺わせていたが、わが埼玉県には縁の遠い蛾であった。


そんなキョウチクトウスズメが2023年に埼玉で発見され、ちょっとした騒ぎになった。

その辺の顛末は新聞に掲載され、ネットニュースでも報道されたのでこちらをご覧いただきたい。

埼玉県で初確認,巨大なガ「キョウチクトウスズメ」飛来 -埼玉新聞WEB 2024年2月21日掲載-


2023年の9月、Twitter(現X)にて「関東でキョウチクトウスズメを撮りました」という投稿を見つけた。

私は最初「どうせウンモンスズメだろう」と思ったのだが、画像を確認するとキョウチクトウスズメであった。

 

これはヤバいぞ、と思い詳細な場所を聞いたところ、なんと我が家から近い場所であった。

投稿者に採集してよいか尋ねたところ、快諾していただいたので即座に行動に移した。

車を走らせること十数分、見慣れた建物の蛍光灯に鎮座していたのは紛れもないキョウチクトウスズメであった。

P1010002
【成虫♀写真】20230930 埼玉県


関東地方本土部で初めて採集された成虫個体である。(既記録は千葉で幼虫の記録)

はじめはニチニチソウなどの植物に卵が付いて運ばれてきたのかと思っていた。

しかし、調べると小売りされているのはほとんどが埼玉県産であり、定着地域から運んでくる理由がない。

 

これは北上してきたのか...?

そう思い始めたところ、地域一帯で幼虫が相次いで発見されたのだ。

 

多くの人々から情報をいただき、最終的にさいたま市内で8カ所,川口市内で2カ所から発見された。

この「キョウチクトウ狂騒曲」とでも呼ぶべき一連の記録は私の方で取りまとめ、報文として発表した。
飯森政宏,2023.関東地方本土部(埼玉県・茨城県)および静岡県にて発生したキョウチクトウスズメ.蛾類通信(308):234-237.


ともわれ、我が街にも憧れのキョウチクトウスズメがやって来た。

2023年に公開された映画の如く、まさに「翔んで埼玉」にやってきたのだ。




もちろん飼育する機会にも恵まれた。

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ツルニチニチソウを食べるキョウチクトウスズメの終齢幼虫



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サナギで雌雄がわかることが判明。

 


室温をある程度に保っておけば羽化まで問題なく持っていける。
Photo_20240227011801

尾端にある緑濃色の斑紋が3カ所あるとオス,2カ所だとメスであり、容易に判別が可能である。
  
Photo_20240227011802
【成虫♂個体】飼育羽化



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【成虫♀個体】飼育羽化


飼育が苦手な私でも、我が家ではキョウチクトウスズメが毎日のように羽化してきた。
 Photo_20240227011602
羽化直後のキョウチクトウスズメ 蛹殻と共に。


新聞記事が出て以降、「私も関東で撮影していました」と画像を何名の方から送っていただいた。

とてもありがたい申し出であったが、画像を確認するとすべてウンモンスズメであった。

 

我々のように常日頃から蛾を気にしている人種には当たり前のように違う蛾なのだが、普段蛾に注目していない方にとっては

緑色の迷彩の蛾を見た、という記憶が鮮明に残り、まさかそれが二種いるなんて思いもしないのだろう。


【ウンモンスズメ】は弊ブログでも一度紹介しているが、良い機会なので改めてここで比較してみる。
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キョウチクトウスズメ(左)とウンモンスズメ(右)


キョウチクトウスズメはスズメガとしては大きい部類に入る。胸のあたりがハチワレになっており、翅を桃色のラインが駆け巡る。

翅の付け根に目玉のような模様が見られるのもわかりやすい。

 

対するウンモンスズメは大きさとしては中程度であろう。後ろ翅は鮮やかな紅色をしている。翅が細い印象。

こうやって書くと似てる…のかなぁ?

なお,2023年の関東地方において発生した情報として,私が報告した他,以下の信憑性の高い情報があった.

昆虫画家 動物画家 KEIZO IMAI's HomePage - キョウチクトウスズメのこと

東京の練馬区で発見されたようだ.


 

種小名はnerii(ネリィ)。人名由来であろう。

埼玉では先述の通り、初記録である。


もちろん現状は埼玉で定着などできないであろう。

しかし今後も飛来する可能性はゼロではない。またいつの日か、我が街に飛んでくる日を待ち続けようと思う。


Photo_20240227011601
 

キョウチクトウスズメ  Daphnis nerii  famale

埼玉県 Sep. 30,2023/Masahiro IIMORI leg.

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