ヒメヤママユ 
Rinaca jonasii (Butler, 1877) 



秋の夜の定番大型蛾である。 早いところは8月下旬から、遅くは11月までその姿を見ることができる。

 

他種に比べ長い期間見られるこの蛾であるが、ある程度の自然が残っていないと生息していないようだ。

 

埼玉では全域で記録こそあるものの、実際に今安定して見られるところとなると

 

狭山以西となってしまうのではないだろうか。

 

生息地では個体数も多く、見つけることは難しくない。灯りを見回ればきっと出会えるハズだ。

 

Shime
【成虫♂写真】20131007 長野県

ヤママユガ科の♂の特徴、立派な櫛状の触角がよく目立つ。触角萌えの方々は見逃せない。

 

 

 

 

Shimesu
【成虫♀写真】20131007 長野県

♀の触角は♂ほど目立たない。色も薄くなり、若干丸みを帯びた翅形となるのがわかるかと思う。

 

 

 

Ssirohime
【成虫♀写真】20131007 長野県


同じ♀だがすごく色が薄い。寒冷地ではこういった極端に色の薄い♀が見られることがある。

 

 

 

 

ヒメヤママユには「黒化型=通称チョコボール」が存在する。簡単にいえば黒っぽい個体だ。

 

厳密に言うと「頭部と胸部の境目あたりの鱗毛が黒く、前翅の淡色部分を欠いた個体」である。

 

普通のヒメヤママユは白いのだが、百聞は一見に如かず、見ていただいたほうが早い。

 

Shimekuroosu
【成虫♂写真】20131007 長野県

 

こちらの♂は見た感じでもう黒っぽい個体というのが解るかと思う。

 

識別点の「頭部と胸部の境目あたりの鱗毛」もちゃんと黒い。

 

 

 

Skurohimesu
【成虫♀写真】20131007 長野県


こちらの♀、一見すると黒くない。カレーっぽい色である。しかし識別点に照らし合わせると「黒化型」なのである。

 

黒化型の発現のシステムはよくわからない。正✕黒では正が生まれるのだろうか?

 

♀にも発現してるということは遺伝的要素が多分に含まれているハズである。

 

なぜ一定地域に多いのかという疑問も拭えない。もし劣性だとすると消え行く型なのであろうか。

 



 

黒化型は生息する範囲が狭い。軽井沢にも少なからず生息しているが、有名産地に比べると確率が低い。

 

埼玉では秩父地方で黒化型がよく見られる。こちらは確率が高く、黒化型に出会うのも難しくない。

 

 



 

以前は北海道亜種S. jonasii fallaxと本州以南亜種S.jonasii jonasii に分かれていたが

 

現在は統合されS.jonasii となり亜種を認めていない。

 

種小名のjonasii (ヨナシイ)は彼の有名な 
Frederick Maurice Jonas(フレデリック モリス ジョナス)(1.I.1851− 24.IV .1924)である。

 

 

 

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ヤママユ屋久島以北亜種
Antheraea yamamai yamamai (Guérin-Méneville, 1861) 

 

夏、お盆前後から目にすることのできる大型の蛾である。

 

「ガ」といえばこの種を連想する人が多く、日本を代表する蛾のひとつではないだろうか。

 

幼虫はバラ科やブナ科の樹木の葉を食べて育つ。大きなイモムシである。

 

繭から穫れる糸はは「天蚕」と称され、緑色の絹糸は普通の絹よりも高級品として取引されている。

 

成虫は灯火によく飛来するため、山間部のキャンプ場やトイレ等で見た方も多いのではないだろうか。

 

 

大きく夜に舞うその姿を嫌悪する方々も少なくない。

 

しかし少し見方を変えると、和風で落ち着いた色彩を持った「蛾らしい蛾」の魅力に惹き込まれるはずだ。

 

Sp9091291
【成虫♂写真】20120908 群馬県

 

オスは非常に発達した触角を持つ。

 

メスに比べ翅頂が尖っている印象だ。

 

 

Sp8241031
【成虫♀写真】20120823 埼玉県

 

メスは触角が細く、翅も丸みを帯びた印象。

 

 

 

ヤママユは色彩変異が多く、焦茶や赤茶、黄色の個体まで幅広く楽しめる。

 

オスの顔は発達した触角が愛嬌を醸し出し、人気も高い。

 

Syaaaa

 

成虫に口はなく、羽化後一週間も経たずに死んでしまう。

 

 

嫌われ者になりがちな種だが、少し蛾に興味を持った人たちにはたちまち人気種となる。

 

好き と 嫌い はそんなに遠い位置にあるわけではなく、少しのきっかけで変わるものだということを教えてくれる蛾だ。

 

 

以前は 

北海道亜種   A.yamamai ussuriensis

本州以南屋久島以北亜種 A. yamamai yamamai

奄美以南亜種 A. yamamai yoshimotoi

と分類されていたが、日本産蛾類標準図鑑では北海道亜種を「一応本土域の名義タイプ亜種に含めておく」との記述がある。
ここではその記述を踏襲し、A.yamamai yamamai の和名を「屋久島以北亜種」として表記する。

 

>>>>>20200709追記
奄美以南亜種が奄美亜種と沖縄亜種に分離された。

岸田泰則,2020.沖縄島産ヤママユの新亜種.月刊むし (592):37-39

 

これにより、日本産ヤママユは

A.y.yamamai ヤママユ屋久島以北亜種
A.y.yoshimotoi ヤママユ奄美亜種
A.y.yambaru ヤママユ沖縄亜種

の三亜種となった。

 

種小名のyamamai(ヤママイ)は古来より日本でヤママユと呼ばれていた本種をそのまま学名にしたものと思われる。

 

 

 

埼玉では地帯別危惧種に指定されている。近年、平野部での記録がほとんどない。
2017年に大宮区で前翅を拾ったが…

 

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オナガミズアオ本土亜種 
Actias gnoma gnoma (Butler, 1877) 



【オオミズアオ】によく似ている種だ。

 

世間ではオオミズアオのパチモンみたいな扱いを受けているが、

 

僕はこのオナガミズアオの方により美しさを感じている。

 

一言で言えば「上品なオオミズアオ」である。

 

Sp9021985
【成虫♂写真】20080902 埼玉県

夏型の♂である。外横線が強く出ているのが夏型の特徴だ。

 

オオミズアオは夏型になると黄色味を帯びてきて若干汚らしく見えることが多い。

 

しかしオナガは鮮やかな蒼翠色を保ったままであることが多い。

 

 

Sp9022013
【成虫♀写真】20080902 埼玉県


同所で得られた♀。もちろん夏型である。

 

♀はオナガの特徴があまり出ていないので同定が難しいが、この個体はひと目でオナガとわかった。

 

 

 

しかし何故上品なのか。

 

僕は前縁部の紫色が半分白くなっているのが上品さを醸し出している一因ではないかと思う。

 

もちろん尾が長くスラっとして見えるのもあるだろう。

 

 

 

Sp603431800
【成虫♂写真】20130603 埼玉県


春型の♂である。

 

オナガは何故か透けてることが多い。鱗粉のノリが悪いのだろうか。

 

しかしこの透け透け具合がまた色っぽさと幽玄さを醸しだすのだ。

 

 

よく質問される事項として「オオミズアオとオナガミズアオの違い」が挙げられる。

 

ということでわかりやすいように解説図を作ってみた。

 

Sp6034343

 

春型で作ったので、外横線の違いが記載されていないがなんとなくお分かりだろうか?

 

もちろん各項目に当てはまらない個体もあり、総合的な判断が必要だ。

また、触角の大きさ(上記比較画像ではオナガミズアオを大きくしてしまったのでわかりづらいが)に違いがあり、

オオミズアオの方が大きく見える。

Photo_20210614211501
【オオミズアオとオナガミズアオの♂触角比較(前翅長はほぼ同じ)】

色が顕著な個体を選んだ。オオミズアオの方が櫛が長く、触角全体の面積が広く感じる。

また、オナガミズアオは飛来してしばらく経つと前翅を閉じる。

210610_20210614211601
【成虫♂写真】20210610 長野県<標高990m>

特に地面に止まってしまうとこのように土下座スタイルとなる。このポーズをしていたら間違いなくオナガミズアオだ。

 

 

以前は
オナガミズアオ本州・九州亜種 A.gnoma gnoma
オナガミズアオ北海道亜種 A.gnoma mandschurica
オナガミズアオ伊豆諸島亜種 A.gnoma miyatai

 

というような具合で3つの亜種に分かれていた。

しかし標準図鑑では北海道亜種を原名亜種(本州・九州亜種)に含める という記述があった。

伊豆諸島亜種 miyatai はそのまま残るようだが、mandschurica は日本から消える事となった。

 

しかし、その図鑑には新しい本州・九州亜種の亜種和名が表記されていない。
言うなれば「本土亜種」であろうか。今回は亜種和名を省かせていただいた。

 

※20130904 ListMj 日本産蛾類総目録 [version 2]に「本土亜種」と記述がされていたのでそれを踏襲する。

 

春型は4月から、夏型はおおよそ7月から見ることができるが、高標高地では夏型を見たことがない。

 

ハンノキ属を食樹とするので、ハンノキ類がないとみることはできない。正午過ぎにハンノキを登って羽化しているのを何度も見かけている。

 

 

種小名はgnoma (グノ-マ)。 小人、妖精を意味するgnom を女性名詞化したものではないかと思う。

 

 

環境省のRDBでは準絶滅危惧(NT)に指定されている。埼玉では上記個体の採れたハンノキ林で有名な秋ヶ瀬の他、

旧大宮市、春日部市、川口市、戸田市、草加市、志木市、北本市、久喜市などの低地帯(おそらくは河川敷)

から日高市、横瀬町といった場所で記録があり、大宮台地の個体群は埼玉県RDBに指定されている。

 

 

僕自身は埼玉の最奥地、三国峠でも採集している。

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クロウスタビガ
Rhodinia jankowskii (Oberthür, 1880)



クロウスタビガ。その響きがなんとなく堪らない。名前を聞くだけで心躍るのは僕だけだろうか。

 

中秋の夜、山間部へ行くときのお楽しみである。

 

何はなくともクロウスさえいれば、その日は「成果アリ」なのだ。


 

 

蛾の渋い魅力を凝縮したような蛾だと僕は勝手に思っている。

 

今まで出会った全個体を撮影してるんじゃないかってくらい撮影している。

 

とにかく出会うと嬉しくって堪らない蛾のひとつだ。


♂は触角が強く櫛状になっている。ヤママユガ科に共通する特徴だ。
Sp9216191
【成虫♂写真】20090921 群馬県

 

 

♀は触角が軽く櫛状。蛾眉という言葉の由来の触角ではないかと勝手に思っている。

Spa152282
【成虫♀写真】 埼玉県

以前はロシア南東部の原名亜種、本州亜種、北海道亜種と分かれていたが、

 

「差異が認められないため原名亜種のシノニムとする」※日本産蛾類標準図鑑よりという記述があった。

 

よって原名亜種と統合となったようだ。

 

 

種小名は jankowskii(ヤンコウスキイ)。 【ヤンコウスキーキリガ】をはじめ、色々なところに出てくるヤンコウスキー氏である。

 

ヤンコウスキー氏については正体がよくわかっていなかったのだが

 

虫撮記【虫画像・他】のyyzz2さんが謎を解いてくれた。

 

 

 

出現期は関東近辺では9月後半から10月中旬くらいまでと思う。【ウスタビガ】より早く出現する。

 

食樹はキハダ。埼玉では準絶滅危惧(NT1)に指定されているが、奥秩父ではちょくちょく見ることができる。

 

 

標本画像

S

Rhodinia jankowskii クロウスタビガ 



 

S_2

Rhodinia jankowskii クロウスタビガ 



                            

 

 

以下記録

 

1013 
【成虫♂写真】20101013 長野県

 

あと、どうでもいい情報ですが。。。

僕の撮影した渾身のクロウスタビガが2013,4月刊行予定の【世界のネイチャー・フォトグラフィー2013】に掲載されています。

 

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ウスタビガ
Rhodinia fugax fugax (Butler, 1877)



晩秋の主役と言っても過言ではないだろう。

 

年間を通してヤママユガ科のアンカーを飾る種である。

 

 

オスとメスの性差が激しく、一見すると別種のように見える。

 

蛾は普通、灯りにやってくるのはオスが多いのだがウスタビガはメスもたくさんやってくる。

 

逆にオスのほうが少ないくらいだ。

 

 

 

Spa2924401111
【成虫♂写真】 20111029 埼玉県

 

オスは茶色が鮮やかな蛾。カッコいい。黄色から真っ黒なものまで地域によって個体変異があるようだ。

 

S
【成虫♂写真】と同一個体。ウサギのような触角が可愛いと評判である。

 

Spa2588441
【成虫♀写真】 20091024 埼玉県

対してメスはオスよりもかなり大型で黄色の蛾。モコモコしててカワイイ。

 

 

 

 






 

自然界にはこのオスとメスが入り混じったモザイク型(gynandromorph)というのが存在する。

 

数万分の一で発生するといわれる異常型であるが、僕は幸運にもその個体と遭遇することができた。

 

 

Spa2924111
【成虫雌雄モザイク型写真】20111029 埼玉県

こちらの個体はむし社発行の「日本のヤママユガ」にも掲載されている。(えらい書かれようではあるが笑)

詳しく知りたい方はこちらの報文を一読いただきたい。
阪本優介・飯森政宏.2013. 関東地方で得られた注目すべき蛾類 蛾類通信 268

 

 

オスの茶色とメスの黄色が入り混じっているのがわかるだろうか

 

触角においてもその混じりっぷりがわかると思う。

 

食樹はバラ科、ブナ科、ニレ科など。

 

>>>>>>>>>20130129追記
以前は北海道亜種と本州以南亜種(原名亜種)に分かれていたが、日本産蛾類標準図鑑では北海道亜種を原名亜種に含めるという記述がある。

大陸には別の亜種がいるため原名亜種であることには変更がないが、日本に生息するウスタビガがすべて同じ亜種とされたため【日本亜種】となる。

当ブログでは【日本亜種】という記載を省略しているため、従来の○○亜種を削除するものとする。
<<<<<<<<<<<<<<<<<<<

 

 

種小名はfugax (フガクス)。ラテン語で「シャイ」。・・・よく意味がわからない。

 

 

 

埼玉でも浦和や川口といった都市近郊の公園や緑地で記録がある。

 

西側に行けば出会うのは難くないが他県よりは少ない印象がある。

 

以下記録
Spa2924461_2
【成虫♂♀写真】 20111029 埼玉県






 

 

 

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オオミズアオ本土亜種
Actias aliena aliena (Butler, 1879)

 

蛾色灯。を始めるにあたり、記念すべき第一種目はオオミズアオにした。

 

何故なら、僕が蛾に魅せられた原因はこのオオミズアオだからである。

 

小学校の頃、クワガタ採集で入った森の中にひっそりと静かに佇んでいた。

 

僕の頭の中のどこかにあった「蛾=汚い」という印象を一瞬で払拭してくれた蛾である。

 

この出会いがなければ僕は蛾とは縁のない人生を送っていたかもしれない。

 

 

実際、このオオミズアオは話題になることが多く、蛾の広告塔のような存在だ。

 

某Zガン○ムに出てくるキュ○レイという人気MSはオオミズアオがモチーフと言われている。

 

キャベツ蛾などと一部で揶揄されているが、この美しさがわからないとは美的感覚がおかしいのではないだろうか。

 

 

 

幽玄、という言葉がとても似合う「元」月の女神。

 

今は学名がアルテミスから変更になったが、その美しさは何も変わらない。

 

 

Sp5098076_3
【成虫♂写真】20110508 埼玉県


春型のオス。個人的には一番美しいタイプと思ってる。

 

 

種小名はaliena(アリエナ)。ラテン語で「外国の」、スペイン語で「疎外」という意らしい。

 

以前の学名はよく知られたActias artemis aliena (アクチアス アルテミス アリエナ)。アリエナは亜種名に使われていた。

 

アルテミスのタイプ標本産地はロシアである。ロシアから見れば日本産は「外国の」という意味になるだろう。

 

外国のアルテミスという意で使われていたaliena が種に昇格したと見ればいいのか。

 

と思ったらmothprogさんのブログに『シノニムとして消えたaliena が復活する』

 

と記述がある。アルテミスになる前にはアリエナだったということだ。これだと相当昔の分類まで調べなきゃならなそうなので諦める。

 

成虫は3月から9月ごろまでの長い期間見られ、春型と夏型がある。

 

 

幅広い広葉樹を食草としているため、都市部でも見かけることがある。

埼玉でも全域で記録されており、僕の住んでいる蕨市でも確認している。



>>>>>20200301修正
亜種和名を以前使われていた本州以南亜種より本土亜種に変更した。


 

オスのゲニタリア
そのまま取り出したもの                   バルバを開いてみたところ

Photo_20210215031201Photo_20210215031202
エデアグス
Photo_20210215031203
オオミズアオ
Actias aliena aliena Male genitalia

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ヤママユガ亜科 Saturniinae

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Antheraea
ヤママユ




Saturnia
ヒメヤママユ




Rhodinia
ウスタビガ クロウスタビガ




Actias
オオミズアオ オナガミズアオ




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