春キリガ

【0171】アオヤマキリガ
Orthosia aoyamensis

春、山地に出現するキリガだ。

色々な樹木を食樹とする広食性だが、関東近辺ではわりあい標高が高めのところでしか見られない。

気温が高いと生息に影響が出るのだろうか。


分布域に行けば姿を見ることは難しくない。多くのアオヤマキリガに逢えるだろう。

Saoyama
【成虫♂写真】20130410長野県軽井沢町長倉<標高1400m>

♂は触角が鋸歯状で目立つ。


種小名はaoyamensis (アオヤメンシス)。-ensis は地名の後につく接尾辞だ。

最初に発見された北海道の青山温泉(昆布温泉郷にかつて存在した温泉、現在は閉鎖)に由来するという。


埼玉では西部に記録が偏っていて山地性であることを伺わせる。

【0133】アズサキリガ
Pseudopanolis azusa

僕は焦っていた。今年もまたアズサキリガには逢えずじまいで終わるのかと。

4月の中旬から5月の中旬にかけて出現する春のキリガである。

その時期に仕事の都合、他種の採集、期待していた林道の通行止めも重なり採集へ行けていなかった。

時は5月下旬。周りで聞こえるアズサキリガ採集の報告も殆どなくなってきた頃だった。


(今年は既知産地ではもう採れない)


そう考えた僕は賭けに出た。

前々からモミやゴヨウマツが生育しており、プセウドパノリスがいるかもと目をつけていた高標高地での採集を決行した。


気温は12℃。点灯後30分、一匹の虫も飛んでこない。

1時間経過。ようやく【ミヤマカバキリガ】【マツキリガ】【シーベルスシャチホコ】などが飛来する。

違うんだ、お前たちじゃない。

でも飛来する蛾はアズサキリガのハイシーズンのそれだ。期待していいのか?

そもそもモミはたくさんあるのに【タカオキリガ】が飛んでこない。やっぱりだめか?


1時間半経過。時刻にして20時半を少し過ぎたあたりだったろうか。

半透明の幕の裏側に止まる蛾と目があった。蛾はこちらを向いており翅が見えない。


しかし、その木が折れた断面のような顔には見覚えがあった。


「タカオか!?」


近寄って確認する。見た瞬間わかった。タカオじゃない。


「アズサ!?アズサだろこれ!」

触角を念のため確認する。フッサフサである。

「アズサだあああ!!!!!」

S_2
【成虫♂写真】20140530吾妻郡嬬恋村<標高1880m>

僕は賭けに勝った。お世辞にも綺麗な個体とは言えない。翅頂がスレているのは肉眼でもわかった。

だが、確実に生息しているかわからないところで幕を張り、狙い通り目的種が飛来すると本当に嬉しい。

嬉しさのあまり比喩ではなくその場を転げまわった。傍から見たら通報モノの奇行であろう。

転げまわる僕のそばにもう一頭、アズサキリガが飛来した。

S_3
【成虫♀写真】20140530吾妻郡嬬恋村<標高1880m>

今度は♀である。しかも綺麗な個体だ。これを大勝利と言わずして何が大勝利だろうか。

この夜は僕にとって鮮烈な記憶となって残る夜となった。


北海道、本州中部での記録があるが同属タカオキリガと比べると極端に産地が限定されている。

標高に左右されない蛾のようだが、埼玉県での記録は今のところない。




種小名はazusa (アズサ)。梓川流域で初めて記録されたため、この名がある。

大和田守氏がタカオキリガを採集していた時、タカオキリガに似た触角の違う蛾が混じっていた、

それがこのアズサキリガの発見だったという逸話は有名である。
大和田守,1991.日本の珍しい蛾6 アズサキリガ.やどりが :146.

興味のある方はご一読いただくことをお勧めする。

【0129】ナマリキリガ
Orthosia satoi

春に出現する春キリガ。その中でも出会うのが難しいキリガのひとつである。

鉛色の前翅に純白の後翅。キリガヨトウガ好きの僕としては是が非とも見ておきたい蛾だった。


一昨年に初遭遇した個体はようやくナマリキリガとわかるくらいにボロであった。

嬉しくて撮影、採集はしたもののやはり綺麗な個体を拝みたい。

そんな恋い焦がれたナマリキリガに今年、ようやく(比較的)綺麗な個体に出逢うことができた。

S_2
【成虫♂写真】20140503山梨県<標高1080m>

高いところに止まっていた怪しい小さ目のキリガ。僕にはピンときた。

「あれはナマリじゃないか?」

しかしそんなことを思ったのは二度や三度ではない。いつも【カシワキボシキリガ】や【ハンノキリガ】に騙されてきた。

が今回は違った。正真正銘のナマリキリガだった。

夜が白み始めた山梨の山の中に、一人の中年男性の笑い声がこだました。いい迷惑である。



種小名はsatoi(サトーイ)。初めて本種を新潟の秋葉山で採集した佐藤力夫氏への献名と思う。

経緯が『ふるさとの蛾お国めぐり : (2)新潟県』(やどりが (32), 5-6, 1963) に記されている。

興味のある方はご一読いただきたい。ちなみに本種は日本でしか記録されていない日本固有種だ。



春キリガの中では遅めの発生のようで、5月に見られることも多いようだ。

埼玉では入川林道での一例が報告されているだけである。


【0127】クロスジキリガ屋久島以北亜種
Xylopolia bella bella

大きめの春キリガで平地から山地まで生息している普通種。

のはずであるが僕の行くフィールドではあまり見かけない種である。

南方系種のようで宮城県あたりが現在のところ北限記録であるようだ。

他のキリガとは少し違う雰囲気があるが、白っぽい前翅に入る黒筋が美しい種だ。

Sxylopolia_bella_bella
【成虫♀写真】20140421下伊那郡阿南町<標高530m>

種小名はbella (ベラ)。 ラテン語で「戦争」の意味である。

物騒な命名だがどこかその風貌に戦車を思わせるようなカラーリングはわからなくもない。


埼玉での記録も多く、遭遇は難しくないはずである。

食草は近年シラカシと判明したようだ。

【0125】クロミミキリガ
Orthosia lizetta

春キリガのオルトシア属に分類されている。少し小さめのキリガだ。

写真で見ると【ホソバキリガ】【クロテンキリガ】【ブナキリガ】【ヨモギキリガ】【ミヤマカバキリガ】など似ている種が多く、

特徴的な斑紋が出ていないとお蔵入りになってしまうこともある。

Skuromimi
【成虫♂写真】20140403山梨県北杜市大泉町<標高1120m>

ここまで特徴が出ていると簡単にクロミミと判断できるのだが・・・

個体変異がとても多く一筋縄ではいかない。


ちなみに僕がクロミミキリガに至るまでのプロセスとして


・大きさ的にはヨモギ≧ミヤマカバ≧ホソバ≧クロミミ≧ブナ・クロテン 

 ある程度キリガを見慣れているとヨモギとミヤマカバはすぐ候補から外せる。


・外横線がカクっと曲がっている
 
 ここでもヨモギは外れる。ブナもここで消える。


・クロテンは翅長が尖り、前翅の幅が狭い。点刻状の中横線が尖り気味に膨らむ。

 ここで該当していなければクロテンが消える。


残るはホソバキリガ。いくつか僕が違ってると思う点、図鑑に載っている相違点を挙げてみる。
・ホソバは一見して大きい個体が多い(クロミミサイズも存在する)
・触角がクロミミのほうが発達している(メスには使えない)
・クロミミは色が薄く白っぽい個体が出る(ホソバには出ないがクロミミはそうでない個体もたくさん)
・クロミミは外横線を黒紋が挟む(ならない個体も)
・クロミミは腎状紋の下側(生体では胴体側)が黒くなる(ならない個体も)
・クロミミは外縁がスラっとしているのに対しホソバは僅かに波打つ(僕の持論なので当てにならない)

ここまで照合しても判断に困るようなら諦めたほうがいいだろう。

食草は様々な広葉樹が記録されていて広食性のようだ。

埼玉でも川口、浦和から三峰、入川まで広く記録されている普通種である。

【0123】アトジロキリガ
Dioszeghyana mirabilis

非常に局所的な分布をする種である。

食草はカシワやサクラ・カシなどが記録されており、どこにでも生えている馴染み深い樹木だ。

しかしアトジロキリガはどこにでもいる種ではなく、生息地が点々と記録されているにすぎない。

自然度が高い所にしか棲めないのかと思いきや、都市近郊の雑木林に記録があったりする。


僕がこの珍品キリガに出会ったのもそんな都市近郊の雑木林であった。

S
【成虫♂写真】20140327 東京都東大和市<標高130m>

新たなポイント開拓のために車で流していたところ、蛾の群れている水銀灯を見つけた。

飛来していたのは【アカバキリガ】や【カバキリガ】、【チャイロキリガ】に【シロヘリキリガ】などの所謂普通種であった。

その中に一頭、小さくて見たことのないキリガが落ちているのに気がついた。

「なんだこれ・・・ 見たことないぞ」

その小さなキリガは翅を震わせ飛ぼうとした。白い後翅が見えた。

「アトジロ!!!!」

そこでやっと気がついたのだった。


この思いがけない出逢いにはとても興奮した。

家に帰って調べるとどうやら同じ所で複数撮影してる方がいらっしゃった。安定して発生してると思われる。


埼玉での記録も単発的で浦和と飯能で採集されている。


種小名は mirabilis(ミラビリス)。 ラテン語で「素晴らしい」の意味だ。最大級の賛辞である。


S
【成虫♂標本写真】20150317 東京都東大和市にて採集<標高130m>

【0087】シロヘリキリガ
Orthosia limbata limbata

春に出てくるオルトシア属のキリガである。

平地から山地まで普遍的に生息するキリガで、時期になると多数の個体が散見される。


一見【ゴマフキリガ】に似ているが、茶褐色のゴマフに対しシロヘリは完全な白黒の蛾である。

それを知っていれば見分けるのに問題はないだろう。

食餌もサクラ、クヌギコナラとどこにでもあるような樹木である。


S
【成虫写真】20130318 埼玉県秩父市大滝<標高860m>

種小名は limbata(リムバタ)。 ラテン語でlimbatusが「辺縁のある」という意味のようなので似た様な意味をもつと思われる。

言わずもがな白い縁の部分を指してのことだろう。

S
【成虫写真】20150317東京都東大和市<標高160m>

基本的には縁部分以外は黒が強いのだが、稀に白が強い個体も見られる。

通称 シロシロヘリキリガ。数はかなり少なく、1/50くらいの確率?見つけると嬉しい変異だ。


埼玉での記録は川口市から旧大滝村までと幅広く、全域に生息しているようだ。

【0075】ホソバキリガ
Anorthoa angustipennis

秋に羽化する越冬キリガとは違い、春に羽化してくる春キリガ。

その中でも先陣を切って羽化してくるのはこのホソバキリガだ。

春キリガ界の特攻隊長、と言って良いかもしれない。


糖蜜にも集まり灯下にもやってくる。キリガを採集しているととにかく良く見る蛾だ。


Sp2262910
20130226埼玉県狭山市<標高90m>
こちらは♂。

Sp2262908
同じ所にいた♀。

フユシャク探索をしていたら樹液に惹かれてやってきていた。
♂は触角が♀に比べ毛深いのがわかるかと思う。


memo.....
ヤガ科 ヨトウガ亜科に分類されています。
2月の中頃から出始め、山間部では5月頃まで見られます。
埼玉でもたくさん記録がある普通種です。

【0059】カシワキリガ
Orthosia gothica jezoensis

春に出現するオルトシア属のキリガ。越冬しないキリガである。

画像検索するとたくさん出てくるので、かなり普通に見られる種のようだが僕はあまり見たことがない。

僕の目にだけにしかわからない強烈な擬態でもしているのだろうか・・・

変異があるようだが、環状紋を黒く縁取る 【】 模様が印象的な種だ。

 S120409k
20120429群馬県片品村丸沼<標高1400m>

オスの触角は強く櫛歯状になっているのがわかる。


種小名はgothica (ゴチカ)。ラテン語でゴシック、の意味である。

ゴシック自体に色々な意味合いが含まれるので、これ!という断定ができないが・・・

黒が太くあしらわれた模様をゴシック体的な意味で指しているのだと思う。

>>>>>>>>>>>>>>160604追記
北海道での採集をしていたところ、見慣れないキリガをみつけた。

一見してオルトシアなそのキリガは見慣れない赤茶色で濃淡のある蛾であった。

同行の蛾LOVE氏が持ち帰り、カシワキリガだということがわかった。

よくよく「日本の冬夜蛾」を見返すと確かに似た蛾が載っていた。この変異は北海道に産するようだ。

Sp5132423
20160514 北海道上川郡上川町<標高700m>


さて、このカシワキリガであるが・・・ 分類の歴史がどうにもごちゃごちゃしている。

そもそもこの赤いタイプのカシワキリガはアカモンエゾキリガO. jezoensis として松村松年によって記載されていた。

この時点で他のカシワキリガは大陸のものと同じO. gothica askoldensis(東アジア亜種とでもいえばいいかな) とされていたようだ。

そしてこのアカモンエゾキリガはO. gothica askoldensis のシノニムとされ、O. jezoensis は分類上からその名を消されることとなった。

しかし、O. gothica askoldensis は独立種。さらに日本のものとは違う、ということになった。

大陸のものはO. askoldensisとして独立種になり、日本のものはO. gothica jezoensis とされ、O. gothica の日本亜種扱いとなっている。

なんか日本のものは暫定っぽい立ち位置なのかな。

運よく北欧のO. gothica が手元にあるのでちょっと調べてみようと思います。

【0058】キンイロキリガ
Clavipalpula aurariae aurariae

平地にも山地にも産する普通種の春キリガ。

黄金色、とまではいかないが鈍い金を思わせるメリハリの効いた前翅が特徴的だ。


灯下に良く集まり、遠目で見ると一瞬「ん?なんだあれ!   ・・・キンイロかぁ」と思わせることもしばしば。

春の探索にはつきもののキリガのひとつだ。

S
20120429群馬県片品村丸沼<標高1400m>
よく見ないとわからないが、オスはメスに比べ若干触角が毛深い。


S110508
20110508埼玉県秩父市豆焼橋付近<標高1065m>
対するメスは糸状の触角だ。

近年、台湾産が亜種とされその他に生息するのは原名亜種となったようで、これにより学名が

Clavipalpula aurariaeから

Clavipalpula aurariae aurariae に変更になったようだ。
              亜種名


memo.....
ヤガ科 ヨトウガガ亜科に分類され、春に出現。
埼玉では4~5月に見られます。

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