春キリガ

【0201】ヨモギキリガ
Orthosia ella

春に現れるキリガ。ヨモギキリガは分布はしているが中々採れない、そんなキリガである。

キリガの仲間というのは基本的に樹木に幼虫がつくのだが、ヨモギキリガはその名の通りヨモギを食餌とする。

ヨモギと言えば河川敷などに良く生えている草である。普通、そんなとこでキリガは採らない。

糖蜜採集も基本的には林のあるところで行う。キリガを採りに行ってもそこにヨモギキリガはいないのだ。

偶々生息域が重なるところで採集をすると飛んでくる。そんなちょい珍キリガなのだ。


そんなヨモギキリガ、飛来するとやはり嬉しい。

前翅からは想像できない純白の後翅を見たら最後、ヨモギキリガはお気に入りのキリガになってしまうのだ。

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【成虫♂写真】201800324埼玉県さいたま市桜区<標高 5m>

種小名はella (エラ)。 スペイン語で「彼女」の意。

埼玉での記録は少なくない。川口から大滝まで幅広く生息している。

【0199】チャイロキリガ
Orthosia odiosa

春に現れる春キリガ。その中でもチャイロキリガは普遍的にみられる種のひとつだ。

和名そのままの茶色に外縁部に現れる三角の白紋。

あまり迷うことはないように思われるが、白紋が消える個体があり、レア種の【イイジマキリガ】?と思うことも。

まあ大体チャイロなのだが…

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【成虫写真】20150318東京都東大和市<標高125m>

種小名は odiosa (オディオサ)。 「憎い」という意味があるようだ。

こんな名前をつけるなんて何があったのか…

埼玉では平地から山間部まで幅広く記録がある。

【0198】アカバキリガ
Orthosia carnipennis

春に現れる春キリガのなかでも中盤に出てくる種だ。

肌色の前翅に目立つ I 紋が印象的で、他に紛らわしい種はない。一目でアカバキリガとわかるだろう。

各種広葉樹を食餌とするド普通種ではあるものの、美しいことに定評があるキリガのひとつである。

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【成虫♂写真】20180319埼玉県秩父市大達原<標高360m>

埼玉では平地から山間部まで幅広く記録がある。

種小名はcarnipennis(カルニペンニス)。ラテン語で直訳すれば「肉の翼」。肌色の前翅を評したわかりやすい命名だ。


余談ではあるがむし社から発行している「日本の冬夜蛾」では僕の撮影したアカバキリガが表紙を飾っている。

キリガ好きの方は是非、ご一読いただきたい。(在庫僅少と聞いていますのでお早めに)

Nihonkirigahyousi
日本の冬夜蛾 (小林秀紀 編,2016, むし社)

【0171】アオヤマキリガ
Orthosia aoyamensis

春、山地に出現するキリガだ。

色々な樹木を食樹とする広食性だが、関東近辺ではわりあい標高が高めのところでしか見られない。

気温が高いと生息に影響が出るのだろうか。


分布域に行けば姿を見ることは難しくない。多くのアオヤマキリガに逢えるだろう。

Saoyama
【成虫♂写真】20130410長野県軽井沢町長倉<標高1400m>

♂は触角が鋸歯状で目立つ。


種小名はaoyamensis (アオヤメンシス)。-ensis は地名の後につく接尾辞だ。

最初に発見された北海道の青山温泉(昆布温泉郷にかつて存在した温泉、現在は閉鎖)に由来するという。


埼玉では西部に記録が偏っていて山地性であることを伺わせる。

【0133】アズサキリガ
Pseudopanolis azusa

僕は焦っていた。今年もまたアズサキリガには逢えずじまいで終わるのかと。

4月の中旬から5月の中旬にかけて出現する春のキリガである。

その時期に仕事の都合、他種の採集、期待していた林道の通行止めも重なり採集へ行けていなかった。

時は5月下旬。周りで聞こえるアズサキリガ採集の報告も殆どなくなってきた頃だった。


(今年は既知産地ではもう採れない)


そう考えた僕は賭けに出た。

前々からモミやゴヨウマツが生育しており、プセウドパノリスがいるかもと目をつけていた高標高地での採集を決行した。


気温は12℃。点灯後30分、一匹の虫も飛んでこない。

1時間経過。ようやく【ミヤマカバキリガ】【マツキリガ】【シーベルスシャチホコ】などが飛来する。

違うんだ、お前たちじゃない。

でも飛来する蛾はアズサキリガのハイシーズンのそれだ。期待していいのか?

そもそもモミはたくさんあるのに【タカオキリガ】が飛んでこない。やっぱりだめか?


1時間半経過。時刻にして20時半を少し過ぎたあたりだったろうか。

半透明の幕の裏側に止まる蛾と目があった。蛾はこちらを向いており翅が見えない。


しかし、その木が折れた断面のような顔には見覚えがあった。


「タカオか!?」


近寄って確認する。見た瞬間わかった。タカオじゃない。


「アズサ!?アズサだろこれ!」

触角を念のため確認する。フッサフサである。

「アズサだあああ!!!!!」

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【成虫♂写真】20140530吾妻郡嬬恋村<標高1880m>

僕は賭けに勝った。お世辞にも綺麗な個体とは言えない。翅頂がスレているのは肉眼でもわかった。

だが、確実に生息しているかわからないところで幕を張り、狙い通り目的種が飛来すると本当に嬉しい。

嬉しさのあまり比喩ではなくその場を転げまわった。傍から見たら通報モノの奇行であろう。

転げまわる僕のそばにもう一頭、アズサキリガが飛来した。

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【成虫♀写真】20140530吾妻郡嬬恋村<標高1880m>

今度は♀である。しかも綺麗な個体だ。これを大勝利と言わずして何が大勝利だろうか。

この夜は僕にとって鮮烈な記憶となって残る夜となった。


北海道、本州中部での記録があるが同属タカオキリガと比べると極端に産地が限定されている。

標高に左右されない蛾のようだが、埼玉県での記録は今のところない。




種小名はazusa (アズサ)。梓川流域で初めて記録されたため、この名がある。

大和田守氏がタカオキリガを採集していた時、タカオキリガに似た触角の違う蛾が混じっていた、

それがこのアズサキリガの発見だったという逸話は有名である。
大和田守,1991.日本の珍しい蛾6 アズサキリガ.やどりが :146.

興味のある方はご一読いただくことをお勧めする。

【0129】ナマリキリガ
Orthosia satoi

春に出現する春キリガ。その中でも出会うのが難しいキリガのひとつである。

鉛色の前翅に純白の後翅。キリガヨトウガ好きの僕としては是が非とも見ておきたい蛾だった。


一昨年に初遭遇した個体はようやくナマリキリガとわかるくらいにボロであった。

嬉しくて撮影、採集はしたもののやはり綺麗な個体を拝みたい。

そんな恋い焦がれたナマリキリガに今年、ようやく(比較的)綺麗な個体に出逢うことができた。

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【成虫♂写真】20140503山梨県<標高1080m>

高いところに止まっていた怪しい小さ目のキリガ。僕にはピンときた。

「あれはナマリじゃないか?」

しかしそんなことを思ったのは二度や三度ではない。いつも【カシワキボシキリガ】や【ハンノキリガ】に騙されてきた。

が今回は違った。正真正銘のナマリキリガだった。

夜が白み始めた山梨の山の中に、一人の中年男性の笑い声がこだました。いい迷惑である。



種小名はsatoi(サトーイ)。初めて本種を新潟の秋葉山で採集した佐藤力夫氏への献名と思う。

経緯が『ふるさとの蛾お国めぐり : (2)新潟県』(やどりが (32), 5-6, 1963) に記されている。

興味のある方はご一読いただきたい。ちなみに本種は日本でしか記録されていない日本固有種だ。



春キリガの中では遅めの発生のようで、5月に見られることも多いようだ。

埼玉では入川林道での一例が報告されているだけである。


【0127】クロスジキリガ屋久島以北亜種
Xylopolia bella bella

大きめの春キリガで平地から山地まで生息している普通種。

のはずであるが僕の行くフィールドではあまり見かけない種である。

南方系種のようで宮城県あたりが現在のところ北限記録であるようだ。

他のキリガとは少し違う雰囲気があるが、白っぽい前翅に入る黒筋が美しい種だ。

Sxylopolia_bella_bella
【成虫♀写真】20140421下伊那郡阿南町<標高530m>

種小名はbella (ベラ)。 ラテン語で「戦争」の意味である。

物騒な命名だがどこかその風貌に戦車を思わせるようなカラーリングはわからなくもない。


埼玉での記録も多く、遭遇は難しくないはずである。

食草は近年シラカシと判明したようだ。

【0125】クロミミキリガ
Orthosia lizetta

春キリガのオルトシア属に分類されている。少し小さめのキリガだ。

写真で見ると【ホソバキリガ】【クロテンキリガ】【ブナキリガ】【ヨモギキリガ】【ミヤマカバキリガ】など似ている種が多く、

特徴的な斑紋が出ていないとお蔵入りになってしまうこともある。

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【成虫♂写真】20140403山梨県北杜市大泉町<標高1120m>

ここまで特徴が出ていると簡単にクロミミと判断できるのだが・・・

個体変異がとても多く一筋縄ではいかない。


ちなみに僕がクロミミキリガに至るまでのプロセスとして


・大きさ的にはヨモギ≧ミヤマカバ≧ホソバ≧クロミミ≧ブナ・クロテン 

 ある程度キリガを見慣れているとヨモギとミヤマカバはすぐ候補から外せる。


・外横線がカクっと曲がっている
 
 ここでもヨモギは外れる。ブナもここで消える。


・クロテンは翅長が尖り、前翅の幅が狭い。点刻状の中横線が尖り気味に膨らむ。

 ここで該当していなければクロテンが消える。


残るはホソバキリガ。いくつか僕が違ってると思う点、図鑑に載っている相違点を挙げてみる。
・ホソバは一見して大きい個体が多い(クロミミサイズも存在する)
・触角がクロミミのほうが発達している(メスには使えない)
・クロミミは色が薄く白っぽい個体が出る(ホソバには出ないがクロミミはそうでない個体もたくさん)
・クロミミは外横線を黒紋が挟む(ならない個体も)
・クロミミは腎状紋の下側(生体では胴体側)が黒くなる(ならない個体も)
・クロミミは外縁がスラっとしているのに対しホソバは僅かに波打つ(僕の持論なので当てにならない)

ここまで照合しても判断に困るようなら諦めたほうがいいだろう。

食草は様々な広葉樹が記録されていて広食性のようだ。

埼玉でも川口、浦和から三峰、入川まで広く記録されている普通種である。

【0123】アトジロキリガ
Dioszeghyana mirabilis

非常に局所的な分布をする種である。

食草はカシワやサクラ・カシなどが記録されており、どこにでも生えている馴染み深い樹木だ。

しかしアトジロキリガはどこにでもいる種ではなく、生息地が点々と記録されているにすぎない。

自然度が高い所にしか棲めないのかと思いきや、都市近郊の雑木林に記録があったりする。


僕がこの珍品キリガに出会ったのもそんな都市近郊の雑木林であった。

S
【成虫♂写真】20140327 東京都東大和市<標高130m>

新たなポイント開拓のために車で流していたところ、蛾の群れている水銀灯を見つけた。

飛来していたのは【アカバキリガ】や【カバキリガ】、【チャイロキリガ】に【シロヘリキリガ】などの所謂普通種であった。

その中に一頭、小さくて見たことのないキリガが落ちているのに気がついた。

「なんだこれ・・・ 見たことないぞ」

その小さなキリガは翅を震わせ飛ぼうとした。白い後翅が見えた。

「アトジロ!!!!」

そこでやっと気がついたのだった。


この思いがけない出逢いにはとても興奮した。

家に帰って調べるとどうやら同じ所で複数撮影してる方がいらっしゃった。安定して発生してると思われる。


埼玉での記録も単発的で浦和と飯能で採集されている。


種小名は mirabilis(ミラビリス)。 ラテン語で「素晴らしい」の意味だ。最大級の賛辞である。


S
【成虫♂標本写真】20150317 東京都東大和市にて採集<標高130m>

【0087】シロヘリキリガ
Orthosia limbata limbata

春に出てくるオルトシア属のキリガである。

平地から山地まで普遍的に生息するキリガで、時期になると多数の個体が散見される。


一見【ゴマフキリガ】に似ているが、茶褐色のゴマフに対しシロヘリは完全な白黒の蛾である。

それを知っていれば見分けるのに問題はないだろう。

食餌もサクラ、クヌギコナラとどこにでもあるような樹木である。


S
【成虫写真】 20130318 埼玉県秩父市 <標高860m>

種小名は limbata(リムバタ)。 ラテン語でlimbatusが「辺縁のある」という意味のようなので似た様な意味をもつと思われる。

言わずもがな白い縁の部分を指してのことだろう。

S
【成虫写真】 20150317 東京都東大和市 <標高160m>

基本的には縁部分以外は黒が強いのだが、稀に白が強い個体も見られる。

通称 シロシロヘリキリガ。数はかなり少なく、1/50くらいの確率?見つけると嬉しい変異だ。


埼玉での記録は川口市から旧大滝村までと幅広く、全域に生息しているようだ。

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