亜高山蛾(関東近辺)

【0185】コクシエグリシャチホコ
Odontosia marumoi

本州の極一部、飛騨、八ヶ岳、秩父山地、日光山地の高標高部にのみ生息するという蛾である。

ダケカンバを食樹とするため、ダケカンバが自生する場所に生息地域が限られているものと思われる。

発生も梅雨時期の初夏に限られ、採集のタイミングを逃しやすいこともあり得にくい蛾である。

岐阜の有名産地では多産するようだが、他の産地ではあまり得られていなかった。


数年前、ネット上に公開されている文献を読み漁っていたところ、この地域での記録があることがわかった。

しかし、採集地は2000m付近となっており車を横づけして採集できるような場所ではなかった。
群馬県立自然史博物館,2013.日光白根山・錫ヶ岳周辺(第1年).良好な自然環境を有する地域学術調査報告書:55-67.

ただ、ダケカンバの分布は国道沿いでも確認していたため、コクシエグリの生息が見込めるのではないかと思っていた。

読みは当たった。最初のトライから数年を要したが、国道沿いで採集することができた。

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【成虫♂写真】20150613 群馬県片品村<標高1630m>

蛾をよく見てる方は【シーベルスシャチホコ】じゃないのか?と思われるかもしれない。

確かにシーベルスシャチホコは個体変異が多く、上に添付した画像のような個体がいてもおかしくない。

発生時期の違いもあるが、シーベルスとの決定的な差異点は触角だ。

コクシエグリは♂でも触角がシーベルスのように発達しないのだ。シーベルスの♀よりは発達するが♂よりは発達しない。

まあコクシエグリが出るころにはシーベルスはもう姿を消しているので、実際に迷うことはないと思われる。

しかし、シーベルス以外にも Odontosia 属で似た種類がおり、そちらとの分類では紆余曲折あったようだ。
従来キテンエグリシャチホコとされていたものが現在コクシエグリシャチホコと【ホッカイエグリシャチホコ】に分かれている。
細かい分類の歴史を調べてみたが、とても手に負えない。いつの日か解明できたらまた追記しようと思う。


標準図鑑には

最初に1940年7月2日奥秩父山地国師岳で得られ(澤田秀三郎採集),
丸毛信勝によりO. carmelita Esper,1799と同定されコクシエグリシャチホコと称された.

小林秀紀,2011.コクシエグリシャチホコ.岸田泰則(編),日本産蛾類標準図鑑 2:121.学研教育出版,東京.
とあるが、その原文を漁ってみると

 Odontosia carmelita ESPER .コクシエグリシヤチホコ
昭和5年7月2日山梨縣國師岳にて澤田秀三郎氏1 對を採集したり。
丸毛信勝.1933.日本産シヤチホコガの1新種及び1未録種 昆蟲6:293

となっている。報文自体が1933(昭和8年)に発行されているので、これは1930年7月2日の誤りと思われる。


種小名はmarumoi (マルモイ)。上記の最初に報告した丸毛信勝氏のことであろう。


埼玉での記録があるという話もチラと聞いたが、埼玉県昆虫誌や寄せ蛾記、蛾類通信、誘蛾燈、蝶と蛾、やどりがには報告を見つけられなかった。

【0184】センモンヤガ
Agrotis exclamationis informis

幼虫は畑を荒らす農業害虫であり、北海道ではさほど珍しくない蛾である。

しかし、本州では標高が高めのごく一部にしか生息しておらず、なかなかお目にかかれない。

僕自身は3度ほど出逢ったことがあるだけだ。

個体さが大きいが、美しい個体ははっきりした斑紋、濃・淡・濃の組み合わせ、

さらに濃の中でもグラデーションがあり非常に美しい。そして(本州では)レア度高め。俗に言う「エロい蛾」である。

S2
【成虫♂写真】20150604 片品村丸沼<標高1400m>

【カブラヤガ】に似ているが、センモンの名の由来であろう、剣状紋が発達しているのが本種の特徴だ。

大きさもカブラヤガより一回り大きい。


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【成虫♂写真】20110723 草津町大字草津白根国有林<標高1860m>

しかし個体によっては平凡な蛾になってしまうのだが・・・ それだけに好みの色彩の個体が来ると嬉しい。


種小名はexclamationis(エクスクラマチオニス)。これはピンときた。おそらく!(エクスクラメーション)のことだ。

前述の剣状紋と腎状紋が!マークを形成している(ように見える)。ここから名前をとったのではないか?

埼玉での記録は三国峠の一件のみとなっている。

【0179】キボシミスジトガリバ 本州亜種
Achlya longipennis longipennis


【0190】キボシミスジトガリバ 道央・道東亜種
Achlya longipennis tateyamai

雪も融け終わり、人が少し増え始めた山の中にひっそりと現れる蛾である。

一見トガリバには見えないその風貌は、渋めながらもハッキリとしており僕好みの模様だ。


毎年会えるとは限らないレア度も、この蛾に逢えた時の嬉しさが大きくなる要因でもある。

まだ暖かいとはいえない春の山の夜も、この蛾に逢えるかもしれないという期待だけで楽しみな場所となる。

S_2
20110503 日光市中宮祠<標高1260m>

Skibosi
20150519 嬬恋村万座<標高1860m>


種小名は longipennis (ロンギペンニス)。ラテン語でlongiは「長い」pennnisは「羽毛」という意味だ。


埼玉ではずっと記録がなかったのだが、近年中津川林道での記録が報告された。
櫛引陸奥男,2013.埼玉県初記録の蛾類36種 寄せ蛾記149:44-53.

食草は未だにわかっていない。


>>>>>>>>>160614追記
【0190】キボシミスジトガリバ 道央・道東亜種
Achlya longipennis tateyamai

北海道へ遠征した際に、道央・道東亜種を撮影することができた。

亜種としての違いを見比べて頂けると思い、同記事に配してみる。


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20160514 北海道上川郡上川町<標高1010m>

道央・道東亜種の特徴として、標準図鑑には「全体的に黒っぽい」「外横線の後縁付近での湾曲が弱い」とある。

同じ画面で見比べるとなるほど、という感じだ。 

しかし、、近年 Laszioet al.(2007)によって独立種にされた直後Tshistjakov(2008)にA. l. longipennisのシノニムとされたりして分類が未だに混沌としているようである。

このブログでは標準図鑑を踏襲して従来通りの亜種として掲載する。


さあ、あとは最難関の道南亜種だ・・・


【0175】ムラサキキンウワバ
Autographa buraetica

本州中部の亜高山帯に生息する種である。

【オオムラサキキンウワバ】に似ているが、一見してオオムラサキ~は前翅の比率が長細く大きい。

見た感じで普通のキンウワバより大きいため、実物を見るとわかりやすい。

紫が強く、美しい種であるため撮影されていることも多いようだ。

対して本種はなかなか見られない蛾なのか、ネット上には写真がほとんど見当たらない。

S130714
【成虫写真】20130714 群馬県吾妻郡中之条町<標高2140m>

せっかくなので数少ないこの写真を活用して、図鑑に出ている特徴を確認してみようと思う。

”♂♀35~38mm内外.
翅先部では外横線外側と外縁部が明るく,
少し波打つ二重の外横線と太く黒い湾曲した亜外縁線が目立つ.
全体は紫というより茶褐色を帯びる
銀紋は小さく,普通はU紋と丸紋はつながる(ときに離れるものもある).

--中略--

日本では本州中部地方亜高山帯に生息する.
年1化で7月下旬に出現する.”

小林秀紀,2011.ムラサキキンウワバ.岸田泰則(編),日本産蛾類標準図鑑 2:279.学研教育出版,東京.

なるほど、写真を見ながら照らし合わせるとなんとなくわかる気がする。


オオムラサキ~の本州での出現期は5~6、8月となっていてズレがあるのだが、

この地では標高が高いからなのか7月にも良く飛来する。つまり同時に飛来することが多いのだ。

私見ではオオムラサキ~に比べて外横線の湾曲が激しく、内横線が後縁に向かうにつれ

基部へ大きく湾曲する個体が多い気がする。もう少したくさんの個体を見てみたい。

種小名は buraetica (ブラエチカ)。 buraetが固有名詞のようだが・・・ 追い切れない。地方名のような気がする。

タイプ産地がモンゴルなのでモンゴルに関係した地名由来なのかもしれない。


埼玉では未だに記録されていない。


【0173】ミヤマヨトウ
Lacanobia contrastata

関東近辺では亜高山帯に生息する美しいヨトウガである。

【ムラサキヨトウ】に非常によく似ており、斑紋での識別は容易ではない。

色彩の淡い方がムラサキということだが、スレた個体もいるため判断が難しい。

しかし大きさが一見して違うということなので、そこで見分けるのが簡単だろう。

ちなみにムラサキの開帳が32~36mmに対しミヤマは40~46mmとなっている。

幼虫時代の栄養によりミヤマの小さい個体はいるかもしれないが、ムラサキの大きい個体はないだろう。

大きければミヤマとして良いと思う。

S_6
【成虫写真】20120714長野県東御市新張<標高1750m>

この場所は採集禁止となっているため、撮影のみであるが一見して大きい個体であった。

一度はムラサキヨトウとしてしまったのだが、この大きさを今思うとミヤマヨトウであろう。


種小名はcontrastata (コントラスタータ)。contrastがそのままラテン語で「コントラスト」の意味である。

見たままのコントラストが強い前翅を評してのことだろう。


埼玉では三国峠と小川町での記録がある。

生息域からして小川町には分布していないような気もするのだが・・・

ちなみに僕自身は1500m以上のところでしか採集、確認していない。


【0163】スジアカヨトウ
Apamea striata

高標高地で7~8月にみかける種である。

【チャイロカドモンヨトウ】や【カドモンヨトウ】に似ているが、

スジアカヨトウは環状紋が扁平で斜めになっている、前翅後縁に平行に黒条紋が見られる、などの特徴がある。

一番わかりやすいのは一見して前翅が木目調という点だ。慣れれば同定に困る種ではない。

食草が未だわかっていないようだ。

S12

【成虫写真】20140724 静岡県小山町須走<標高1600m>

種小名はstriata (ストリアタ)。ラテン語で「縞模様」のという意味。

前翅を形容したストレートな名前である。


埼玉では高標高地に記録が限られている。

【0162】アオバヤガ
Anaplectoides prasina

関東近辺では標高の高いところに生息する大型のモンヤガである。

美しい緑色の前翅は個体による。色褪せた様子もないのに褐色やモノクロの個体もよくみかける。

それだけに新鮮な緑色の個体に出逢ったときは嬉しくなる。綺麗なアオバヤガは思わず撮影してしまうのだ。

様々な草本類を食草とし、6~8月に成虫が見られる。


S15
【成虫写真】20140719 山梨県山梨市牧丘町北原<標高2340m>


種小名は prasina (プラシナ)。 prasinというのは草色のことらしい。(カラーコード4ca66b)

わかりやすい命名だ。

埼玉県では高標高地に記録が限られる。

【0158】オオアカヨトウ
Apamea lateritia lateritia

本州中部では1000m付近からその姿を見かける大型のヨトウガ。

同じように亜高山性の種が多い日本産のApamea(アパメア)属14種中では最大を誇る。

といっても前翅の色彩は錆びたような色一色でお世辞にも僕の感性では美麗種とは言い難い。

時期があっていて標高さえあれば飛来するケースが多く、有り難味にも欠ける蛾である。


簡単に言えばスルー対象の蛾だ。


平地で逢えるような蛾ではないのだが、高標高地に行くとどうにも「かったるくなって」撮らない採らない蛾が出てくる。

で家に帰って後悔する。これをなんとかしなければいけないとは思っているのだが・・・

S17
【成虫♂写真】20140719 山梨県山梨市牧丘町北原<標高2340m>

イネ科の根茎を食草とするようだ。成虫は7~8月の出現。

種小名はlateritia (ラテリティア)。ラテン語で煉瓦の意。翅色から取ったに違いない。わかりやすい名で助かる。


埼玉では奥秩父の高標高地で記録されている。

【0148】ミヤマアカヤガ
Diarsia brunnea urupina

中部地方の高標高地では珍しくないモンヤガである。

標高が1000m付近でも見られるが、1500mくらいになると数が多くなる印象がある。

個体によって色の濃淡にかなりの差があるが、翅形や二重の外横線、環状紋と腎状紋の

間が濃色になる等の特徴を覚えてしまえば、さほど同定に迷う種ではないように思う。

S_4
【成虫写真】20140719 山梨県山梨市<標高2300m>

とても赤味が強く美しい個体である。

この日は100を超えるミヤマアカヤガが飛来した。発生のピークだったのかもしれない。

2週間後、同じ所でライトトラップをしたところ、飛来したのはスレスレの3頭。

口吻の退化は見られないので摂食をする蛾のハズだが寿命はさほど長くないのか、それとも移動したのか。



日本産蛾類標準図鑑には日本産は亜種 urupina とされる、という記述がある。

しかしネット上ではどこを見てもDiarsia brunnea までしか表記されていない。

当ブログでは標準図鑑を踏襲し、Diarsia brunnea urupina と表記する。

種小名brunnea (ブルンネア)は 鳶色 という意味のようだ。




埼玉では甲武信小屋や雁坂小屋といった高標高地の記録と寄居町の記録がある。

【0142】シロオビハイイロヤガ
Spaelotis lucens

灰色の地色に白く線を描いた一見地味なモンヤガである。

渋めの美と言えばそう見えなくもないが、僕の印象は「知的な大人の美しさ」である。

主張しすぎず、かといって無個性でもない。控えめな主張で個を演出している。


S_2
【成虫写真】20140829 群馬県片品村丸沼<標高1400m>

あまり光源近くには飛来せず、離れたところで落ち着く という記述が標準図鑑にはあるが、

僕が遭遇した二個体はいずれも光源に近すぎず遠すぎず、いわば普通の場所で落ち着いていた。

どこを見ても「個体数は少ない」との記述があり、珍品の誉高い種であるようだ。


種小名の lucens (ルーケンス)はラテン語で「明るい」。他のスパエロチス属に比べ明るいということだろうか。

埼玉では三国峠の他、大洞川(正確な場所不明、大洞川林道700m~1100mか)や旧大滝村滝川といった高標高地で記録されている。

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