高山蛾

【0193】アルプスギンウワバ
Syngrapha ottolenguii nyiwonis

高山蛾、と呼ばれる蛾の中では唯一のキンウワバ亜科に属する。

コケモモ、ガンコウラン、クロマメノキが食草として記録されており、生息域と密接な関係があると思われる。

他の高山蛾に比べると低標高でも採集されており、高山蛾のなかでは比較的出会いやすい種類だ。

成虫は7~8月に見られるが、秋になると低標高地に降りてくるという習性もあるようで、純粋な高山蛾とは言えないかもしれない。


しかし、その美しさには何の関係もない。

新鮮な個体は美麗種が多いキンウワバの中でも1,2を争うのではないかと勝手に思っている。

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【成虫写真】20160804 群馬県吾妻郡草津町<標高2070m>

本日羽化しました!と言わんばかりの美麗個体。紫色が鮮やかである。

毎日定点観測をしているのでなければ、こういった個体に遭遇するのは完全に運である。

この美麗個体に逢えた運には素直に感謝したいと思う。


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【成虫写真】20160804 群馬県吾妻郡草津町<標高2070m>

同日同所で飛来した個体であるが、幾分スレた感がある。紫色は褪せ、渋めの銀色になってしまう。

トサカ部分が他のキンウワバとは違い、何層にもなっているように見えるのが特徴的だ。

撮影した群馬県では上信山地にのみ生息し、準絶滅危惧種としてRDBに記載されている。

種小名はottolenguii(オットレングイ)。献名だな・・・調べるのめんどくさいのでやめる。


埼玉では記録されていないが、いてもよさそうな気がする。クロマメノキが高山帯にあるかどうか。 

【0159】フジシロミャクヨトウ
Sideridis kitti

富士山の5合目付近にのみ生息するという、極めて特異な分布をしている蛾である。

その生息地の狭さ故か、環境省のRDBでは準絶滅危惧(NT)に指定されている。


国外には広く生息している種なのだが、なぜ日本では比較的新しいとされる富士山にのみ生息しているのか。

詳しい分布はアルプス山脈、ウラル山脈南部、中央アジア、トルキスタン、モンゴル、シベリア南部となっている。

寒い地方を好む蛾ではありそうだが、他の高山帯にいない理由がわからない。

食草がムラサキモメンヅルとなっているが、特に富士山固有の植物ではない。

考えられるのは富士山以外の個体群が絶滅したということだが・・・ 想像の域は出ない。

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【成虫写真】20150723 静岡県小山町須走<標高1960m>


黒地に白い横脈が美しい種だ。前翅を閉じると外横線に富士山が現れる。

まさに富士山を代表する蛾といえるだろう。今のところ日本産の生体写真はネット上にこれだけだと思う。


種小名は kitti (キッティ)。いかにも献名ぽい。

決してりんご3個分のネコではない。ましてや「マイケル行きましょう」なんて絶対に言わない。

記載者はSchawerda氏で1914。同じ時代にkitt氏という方もククリアを記載しているのでこの方ではないかと思う。


現在は富士山のみで見つかっているので、勿論埼玉県では記録されていない。

【0144】クモマウスグロヤガ
Euxoa ochrogaster rossica

クモマ、という和名は漢字で雲間と書く。

蝶では雲間ツマキチョウ、雲間ベニヒカゲといった高山蝶の和名に使われている。

雲の間に生息する蝶、という意味だろう。


和名だけで心躍らせる「クモマ」の三文字だが、蛾の世界ではこのクモマウスグロヤガ一種だけにつけられている。

それがまたこの種に対する想いを一段と募らせる。 

霧の多い北アルプスの稜線にひっそりと暮らす、そんなイメージを持ってしまう。


だが実際は様々な場所で採れている。

勿論、標高がかなり高めのところでしかお目にかかれないのだが、2000mないといない、というわけでもないようだ。

僕自身は1600mくらいでも見ている。高山蛾、という括りに相当するのかは怪しい部分もある。

しかしその姿はクモマの名にふさわしく、高貴で品のある蛾だと思っている。

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【成虫写真】20140910 静岡県駿東郡小山町須走<標高1960m>

まさに美しいの一言に尽きる。銀白色に輝くこの蛾を見たときは、ため息しか出なかった。


この夜は複数のクモマウスグロヤガが飛来した。本種は個体変異が多く、一見すると別種に見える。

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【成虫写真】20140910 静岡県駿東郡小山町須走<標高1960m>

一枚目の個体と比べると灰色味が強い。

一枚目をタイプシルバーと形容するならさしずめこの個体はタイプグレーとでも言おうか。

タイプグレーは【ウスグロヤガ】に近いが、一回り小さい。

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【成虫写真】20140910 山梨県南都留郡鳴沢村<標高1660m>

タイプホワイト?と言いたくなるが擦れてこの色になってるのだと思う。

もう少し新鮮なら【ムギヤガ】に似た模様をしていたはずだ。

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【成虫写真】20140910 山梨県南都留郡鳴沢村<標高1660m>

幾分黒味が強いタイプブラック。なかなか渋いタイプだ。


僕はやはりタイプシルバーがお気に入りだ。シルバーが飛来した時はテンションが上がってしまう。

目にする機会が少ないうえ、当たり外れの大きい蛾かもしれない。

しかしロマンを感じるのは得てしてこういった蛾なのである。


日本で記録された当時はE.islandica(イスランディカ)と同定されているのだが
杉繁郎・神保一義,1978. 本州の高山帯に分布するクモマウスグロヤガについて 蛾類通信97:611-616.

学名が変更になっているのを見ると同定しなおされたのだろう。
 

現在の種小名は ochrogaster (オクロガステル) ochroはオクラのことらしい。 gasterは胃。

オクラの胃?ってことは幼虫がオクラを食べつくす勢いで食害するのか。

と思ったら日本での食草はアブラナ科のフジハタザオだという。

ヨーロッパでオオバコ、アイスランドでトクサ。

名義タイプ亜種が北アメリカなのでそちらはオクラ食いなのだろうか。



埼玉でも一例だけ記録がある。(三国峠)


【0138】ヤツガタケヤガ
Xestia yatsugadakeana

高山蛾、と呼ばれる蛾のひとつである。

ヤツガタケヤガ、というのは八ヶ岳から取った和名だと想像に難くないが、八ヶ岳に固有なわけではない。

中部地方の山地、2000m付近に生息していて車で行けるような場所でも記録がある。

高山蛾の中でも出逢いやすい種である。 時期は8月の初~中旬であろうか。


今まで出会ったすべての個体(8個体)は幕まで飛来せず、地面に止まっていた。

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【成虫写真】20140807 山梨県山梨市<標高2300m>

点灯後、10分ほどで飛来したこの個体はド完品。羽化したての個体であろう。


赤茶色の翅色に目立つ白い環状紋。翅を重ねて止まるところは見たことがない(すぐ〆てしまうからか)

スレると色が落ちてしまうが、この赤茶色がヤツガタケヤガの特徴だと思っていた。


この個体に逢うまでは。

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【成虫写真】20140807 山梨県山梨市<標高2300m>

ド完品である。

しかし色が全く違う。まさか【アトジロアルプスヤガ】?と戸惑ってしまった。

比べると上記のヤツガタケヤガと同じ模様である。ヤツガタケヤガは赤茶色だけではなかったのだった。

食草がわかっていないが、【アルプスヤガ】と似たような場所で採集されるため

近いもの(アルプスヤガはエゾノツガザクラ等のツツジ科)があるのではないかと思っている。

埼玉ではアルプスヤガの記録はあるものの、ヤツガタケヤガの記録はない。

周辺の生息状況から考えるといてもおかしくはないと思っているのだが・・・


以前はヤツガ「ダ」ケヤガという和名だったが、標準図鑑ではヤツガ「タ」ケヤガと変更になっている。

種小名がyatugadakeana (ヤツガダケアナ)。そのまんまである。和名と違い、ヤツガ[ダ]ケであるため紛らわしい。

【0094】アルプスヤガ
Xestia speciosa ussurica

高山蛾、と呼ばれる一群がいる。本州では標高2000m以上にのみ生息する蛾の総称である。


いくら現代の道路網が発達していようとも標高2000mを超える道路というのは数少ない。

そしてマイカー規制により、一般人が通れる道路はより少なくなっていく。

高山蛾に会うのは至難の業である。


そんな数少ないポイントでも生息している場所とは限らないのがまた困りものだ。

だからこそ高山蛾にはロマンを感じざるを得ないのであるが。

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【成虫写真】 20130727 山梨県山梨市 <標高2300m>

そんな難関を乗り越えて出会えたアルプスヤガ。黒と白のメリハリの効いた模様は非常に美しい。

世俗を離れたところに棲む美しい蛾。この蛾に逢う為に毎年夏は高地でライトトラップを敢行してしまう。

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【成虫写真】 20150802 山梨県山梨市 <標高2300m>

僕の経験では点灯後3時間で飛んでくることが多い。もちろんすぐそばにいればすぐ飛んでくるのだろうが。

幕には止まらず地面を走り回る。石の下等に潜ることが好きなので、見つけたらすぐに確保しないとスレてしまう。

このアルプスヤガ、産地によって微妙に翅色、翅形が違うようだ。

乗鞍産になると茶色味を帯びるという。そちらも是非見てみたい。

至難の業、とは書いたが車で行ける場所で出会えるこの蛾は高山蛾の中ではビギナー向けであろう。

僕もいつかは登山でしか出会えない蛾にチャレンジするのだろうか・・・


幼虫はツツジ科のコケモモ、エゾノツガザクラといった植物を食べて育つ。

種小名はspeciosa ラテン語で「美しい」。ド直球の命名。

この美しさは世界共通のようだ。


埼玉でも甲武信岳で記録がある。埼玉では本格的に登山をしないと逢えないだろう。

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