春枝尺四天王

【0195】クワトゲエダシャク
Apochima excavata

目にする機会の多い【オカモトトゲエダシャク】に酷似した種である。

戦前はクワの害虫としてその名を馳せたが、桑畑の減少により生息地は急減した。

近年は点々と記録があるにすぎないレア蛾となってしまった。

環境省のRDBカテゴリでも準絶滅危惧(NT)に指定されており、生息地の保全が急務である。

僕が勝手に制定した【春枝尺四天王】(春に出現するエダシャクの中でも採集しにくい四種)の一角であり、

残り三種を採集していた僕にとってクワトゲは是が非とも出会っておきたい種であった。


そんなクワトゲ、有名な産地がいくつかあり僕はそのひとつ岐阜県の産地へ赴いた。

到着した感想はなんの変哲もない河川敷である。どこにでもありそう、といったら失礼かもしれないが

埼玉でもこのような環境はあるだろう。食樹であるクワは確かに散見されたが、特記するほど多いわけでもない。

本当にこんな場所にいるのかというのが正直なところだった。

しかしである。

小さな常夜灯の下に見慣れたスタイルの蛾がついている。

一見して色が薄い。クワトゲであった。

到着して5分。まだ陽も落ちていない。恋焦がれたクワトゲとの対面はあっけなく達成された。

P3042764
【成虫♂写真】20180304 岐阜県<標高 25m>

目的は達成してしまったが、せっかく6時間もかけて遠路はるばるやってきたのにこれで帰るのはちと寂しい。

追加を狙って少し離れた場所でライトトラップをやることにした。

19:00に点灯。何も飛来しない。ヒゲナガカワトビケラだけが増えていく。

21:00を過ぎてシモフリトゲやトビモンなどが飛来するがクワトゲは飛来しない。

あんなに小さい灯りに来てたんだ、発生しているんだ、来ないはずがない。

23:00。なにも増えない。ここまで何もこないとさすがにテンションが下がる。もう無理か…

23:30。何やら飛んできた。期待もせずに見てみたら




来た!クワトゲだ!!

P3042768
【成虫♂写真】20180304 岐阜県<標高 25m>

続けて2♂飛来。良かった良かった。どうやらクワトゲは日付が変わるあたりに活動するようだ。

そういえばオカモトも飛来は遅かったっけ。さて楽しくなってきたぞ。いくつ追加できるかな…


長男が叫ぶ。

「何だ?これおかしいよ?」


なんだなんだ何がおかしいんだ。


長男「クワトゲ?なんだろうけどなんかでけえよこれ」


は? まあそんな個体もいるだろ どれどれ…

P3042772
【成虫♀写真】20180304 岐阜県<標高 25m>

うわあああああ!!!!!! メスだ!!!!!!


メスだ。メスである。どうみてもメスだ。



クワトゲのメスは灯りにこない、のが定説である。

近似種で普通種のオカモトですらメスは灯りにこないので珍品なのだ。


でも飛来した。というか僕はこいつらのメスはほとんど飛べないんじゃないかとすら思っていた。


飛べたんだねキミたち。。。



ということで、合計6♂1♀を採集し、僕の岐阜行は大勝利で幕を閉じた。



さて、ここまでお読みの方は疑問を持つ方もおられると思う。

「オカモトとクワトゲって何が違うの?」

傍目にはそっくりなこの二種、いくつか相違点がある。


1.クワトゲは色が薄い

よく言われてることだが、クワトゲはオカモトに比べてくすんだような色である。


これは実際見ると意外とわかる。しかし、すべてをこれで識別できるかというと疑問符がつく。P3042753

顔を撮ってみても何かくすんだ色の薄い感じがする。彩度が低いと言うべきか?

2.クワトゲは前翅内横線が「くの字」になる

内横線とは一番頭側にある目立つ濃い線のことだ。(本来はもっと内側に亜基線というのもあるのだが)

これがクワトゲは「く」の字になり、オカモトは「(」状になるのである。

P3052781

特異な止まり方をするアポキマ属だが、翅を広げると普通の蛾になる。

こうなっていれば「く」の字になっているのがお判りいただけると思う。

しかし翅の模様を中々見せてくれないため、一見ではわかりづらい。



3.クワトゲの後脚には二対の距がある

【オカモトトゲエダシャク】 でも触れたが、クワトゲは後脚に二対の爪があるのだ。
P30427571_2

これは撮影のみでも角度に気を付ければ判別することができる。

当記事一枚目の画像にも二対の距が確認できるのでもう一度ご覧いただきたい。


以上のような識別点でクワトゲは判別できるので、アポキマを見つけたときにはご活用いただければと思う。

種小名は excavata(エクスカバ-タ) 掘る、とか掘り出し物、みたいな意味があるようだが相関は不明。

【アカエグリバ】にも同じ名前がついているようだ。


埼玉では1990年代初頭に皆野町と寄居町での記録がある。

【0132】ムクゲエダシャク
Lycia hirtaria parallelaria

白銀の前翅に目立つ櫛状の触角を持つ魅力的なエダシャクである。

春の短い時期にだけ発生する種で、北海道と本州の一部(山梨、長野、岩手)にのみ記録があるようだ。

生息域が狭いのか、中々見ることができない蛾のように思う。

僕が勝手に制定した【春枝尺四天王】(春に出現するエダシャクの中でも採集しにくい四種)の一角であり、少なくとも僕は今回が初見であった。


この時は【ウスシモフリトゲエダシャク】を狙っての遠征であったが、集まる蛾を見ると明らかに時期が過ぎていた。

標高を上げに上げた結果の場所でも似たような顔ぶれだった。

しかし最後にこのムクゲエダシャクが一頭だけ飛来してくれたおかげで、結果的に良い遠征となってくれた。

S
【成虫♂写真】20140503 南佐久郡川上村七森沢<標高1500m>

このモフモフ具合と渋目の前翅、大きな触角、さらに中々出会えないレア度。

個人的にはもう少し人気が出てもよさそうな種だと思っているのだが、検索で出るのはカバシタ~の方ばかりだ。

メスは翅が半透明になるようで、そちらも是非出逢いたいものだ。

種小名はhirtaria (ヒルタリア)。アイスランド語で hirtar=収穫 という意味があるようだが真偽はわからない。


埼玉での記録が未だにないが、密かに狙っている種でもある。

【0126】タケウチエダシャク
Biston takeuchii

エダシャク亜科でも人気の高いビストン属に分類されている。

発生が非常に局所的で、日本鱗翅学会発行の"やどりが"では「日本の珍しい蛾」として紹介されている。(やどりが:142)
僕が勝手に制定した【春枝尺四天王】(春に出現するエダシャクの中でも採集しにくい四種)の一角であるが、

発生地では複数の飛来を見ることができ、珍種の大量飛来にアドレナリンの分泌が止まらなくなってしまう。

東雲色というのかこの煤けた赤い色のシャクガは他に憶えがなく一目でソレとわかる種だ。

Stakeuchii
【成虫♂写真】20140421下伊那郡下條村<標高510m>

この界隈では記録が多いようで僕もその恩恵に与ることができた。

この日は6♂が飛来し、そこにもここにもタケウチエダシャク、という豪華な灯火であった。

が、興奮しすぎてよりによって一番ボロな個体を撮影するという失態を犯してしまった。


発生地での遭遇は難しくないのかもしれないが、これだけ局所的に生息しているということは
ひとたびその地域の環境が変わってしまうと、一気に生息の危機に瀕してしまうのではないだろか。

食草はヤマモモやウラジロガシ、シダレヤナギで飼育成功との報告があるようだ。

東京、栃木、群馬での記録があるが、埼玉では未だ記録がない。

【0076】チャオビトビモンエダシャク
Biston strataria hasegawai

ビストン属の中でも出会うのが難しい種類のひとつだ。

僕が勝手に制定した【春枝尺四天王】(春に出現するエダシャクの中でも採集しにくい四種)の一角である。

一見すると【トビモンオオエダシャク屋久島以北亜種】に似ているが、

チャオビ~は後翅が薄い、後翅の中横線がカクカクしてない点で見分けがつく。

止まり方も△状に止まることが多いようだ。



見分けが付くのか不安だったが、実際に会うと一見して違いがわかるから不思議なものだ。
S
S_2
20130318山梨県<標高550m>

同じ個体である。普段の止まり方と後翅の薄さを見ていただく為、二枚貼ってみた。


幼虫は海外の記録では広食性のようだが、日本では確定していない。

ただ、トビモンオオエダシャクの様にどこでも見かける種ではない。

一体何が二種の生息域で違うのか。蛾の世界の不思議は尽きない。


以前はとてもレアだったのだが、ここ一、二年で妙に目撃例が増えている種である。

しかも3月の目撃が多い。既知の知見では4~5月となっていたのだが・・・

♀の記録が非常に少なく、未だ国内では片手ほどの状態だ。


種小名はstrataria(ストラタリア)。少し検索するとstratに「地層」という意味があり前翅の模様としっくりくる。

接尾辞-riaをつけてラテン語化したものかもしれない。


埼玉では未だに記録されていない。

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