【0195】クワトゲエダシャク
Apochima excavata
目にする機会の多い【オカモトトゲエダシャク】に酷似した種である。
戦前はクワの害虫としてその名を馳せたが、桑畑の減少により生息地は急減した。
近年は点々と記録があるにすぎないレア蛾となってしまった。
環境省のRDBカテゴリでも準絶滅危惧(NT)に指定されており、生息地の保全が急務である。
僕が勝手に制定した【春枝尺四天王】(春に出現するエダシャクの中でも採集しにくい四種)の一角であり、
残り三種を採集していた僕にとってクワトゲは是が非とも出会っておきたい種であった。
そんなクワトゲ、有名な産地がいくつかあり僕はそのひとつ岐阜県の産地へ赴いた。
到着した感想はなんの変哲もない河川敷である。どこにでもありそう、といったら失礼かもしれないが
埼玉でもこのような環境はあるだろう。食樹であるクワは確かに散見されたが、特記するほど多いわけでもない。
本当にこんな場所にいるのかというのが正直なところだった。
しかしである。
小さな常夜灯の下に見慣れたスタイルの蛾がついている。
一見して色が薄い。クワトゲであった。
到着して5分。まだ陽も落ちていない。恋焦がれたクワトゲとの対面はあっけなく達成された。
目的は達成してしまったが、せっかく6時間もかけて遠路はるばるやってきたのにこれで帰るのはちと寂しい。
追加を狙って少し離れた場所でライトトラップをやることにした。
19:00に点灯。何も飛来しない。ヒゲナガカワトビケラだけが増えていく。
21:00を過ぎてシモフリトゲやトビモンなどが飛来するがクワトゲは飛来しない。
あんなに小さい灯りに来てたんだ、発生しているんだ、来ないはずがない。
23:00。なにも増えない。ここまで何もこないとさすがにテンションが下がる。もう無理か…
23:30。何やら飛んできた。期待もせずに見てみたら
来た!クワトゲだ!!
続けて2♂飛来。良かった良かった。どうやらクワトゲは日付が変わるあたりに活動するようだ。
そういえばオカモトも飛来は遅かったっけ。さて楽しくなってきたぞ。いくつ追加できるかな…
長男が叫ぶ。
「何だ?これおかしいよ?」
なんだなんだ何がおかしいんだ。
長男「クワトゲ?なんだろうけどなんかでけえよこれ」
は? まあそんな個体もいるだろ どれどれ…
うわあああああ!!!!!! メスだ!!!!!!
メスだ。メスである。どうみてもメスだ。
クワトゲのメスは灯りにこない、のが定説である。
近似種で普通種のオカモトですらメスは灯りにこないので珍品なのだ。
でも飛来した。というか僕はこいつらのメスはほとんど飛べないんじゃないかとすら思っていた。
飛べたんだねキミたち。。。
ということで、合計6♂1♀を採集し、僕の岐阜行は大勝利で幕を閉じた。
さて、ここまでお読みの方は疑問を持つ方もおられると思う。
「オカモトとクワトゲって何が違うの?」
傍目にはそっくりなこの二種、いくつか相違点がある。
1.クワトゲは色が薄い
よく言われてることだが、クワトゲはオカモトに比べてくすんだような色である。
これは実際見ると意外とわかる。しかし、すべてをこれで識別できるかというと疑問符がつく。
顔を撮ってみても何かくすんだ色の薄い感じがする。彩度が低いと言うべきか?
2.クワトゲは前翅内横線が「くの字」になる
内横線とは一番頭側にある目立つ濃い線のことだ。(本来はもっと内側に亜基線というのもあるのだが)
これがクワトゲは「く」の字になり、オカモトは「(」状になるのである。
特異な止まり方をするアポキマ属だが、翅を広げると普通の蛾になる。
こうなっていれば「く」の字になっているのがお判りいただけると思う。
しかし翅の模様を中々見せてくれないため、一見ではわかりづらい。
3.クワトゲの後脚には二対の距がある
【オカモトトゲエダシャク】 でも触れたが、クワトゲは後脚に二対の爪があるのだ。
これは撮影のみでも角度に気を付ければ判別することができる。
当記事一枚目の画像にも二対の距が確認できるのでもう一度ご覧いただきたい。
以上のような識別点でクワトゲは判別できるので、アポキマを見つけたときにはご活用いただければと思う。
種小名は excavata(エクスカバ-タ) 掘る、とか掘り出し物、みたいな意味があるようだが相関は不明。
【アカエグリバ】にも同じ名前がついているようだ。
埼玉では1990年代初頭に皆野町と寄居町での記録がある。