埼玉県RDB種

【0121】フチグロトゲエダシャク
Nyssiodes lefuarius

春の短い期間にだけ現れる昼行性のフユシャクである。

河川敷によく生息地が知られているが、元々は草原性の蛾らしい。

人間の開発により生息場所が河川敷に狭められていった、と見るべきかもしれない。


♂の飛翔は素早く、枯れ草が保護色となり見失うケースが多い。

大人しく撮影対象になってくれることが多い蛾類にしては写真が撮りづらい種だ。


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【成虫♂写真】20140303 埼玉県さいたま市<標高10m>

♂はフサフサの触角が目立つ、『櫛髭四天王』の一員だ。

太陽が出ていて風が弱い時によく飛ぶようだ。時間的には正午前後によく見る印象がある。

対する♀は全くの無翅でアザラシのタマちゃんのような風貌だ。

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【成虫♀写真】20090221 埼玉県さいたま市<標高10m>
産卵中失礼して撮影した。

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【成虫交尾写真】20100301 埼玉県さいたま市<標高10m>

2回観察した交尾の時間はいずれも12時半頃。しかし交尾後も♀はまたコーリングして再交尾するという。

あまり聞かない習性である。


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【幼虫写真】20130504 飼育<自宅撮影>


幼虫はノイバラやクローバーなど、多岐にわたる草本を食草とする。

僕はサクラを食べさせていたがよく食いついてくれた。(糞が良い香りになったりする)




フユシャクの中でもフチグロトゲエダシャクは非常に人気が高く、蛾屋以外にも人気である。

観察に生息地へ行くと網を持った人と遭遇する確率が高い。

フサフサ触角の♂と愛くるしいアザラシのような♀は"フッチー"の愛称で今年も虫屋に春を告げてくれる。



種小名lefuarius (レフアリウス)。 ルーマニア語でlefua=「洗練された」 riusは接尾辞か。これだと信じたい。



埼玉では2月後半から3月前半に出現。

産地は非常に少なく、埼玉県RDB2008で絶滅危惧I類に指定されている。


【0088】オナガミズアオ 本土亜種
Actias gnoma gnoma

【オオミズアオ本州以南亜種】によく似ている種だ。

世間ではオオミズアオのパチモンみたいな扱いを受けているが、

僕はこのオナガミズアオの方により美しさを感じている。

一言で言えば「上品なオオミズアオ」である。

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20080902 埼玉県さいたま市桜区<標高10m>
【成虫♂写真】夏型の♂である。外横線が強く出ているのが夏型の特徴だ。

オオミズアオは夏型になると黄色味を帯びてきて若干汚らしく見えることが多い。

しかしオナガは鮮やかな蒼翠色を保ったままであることが多い。


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【成虫♀写真】20080902 埼玉県さいたま市桜区<標高10m>

同所で得られた♀。もちろん夏型である。

♀はオナガの特徴があまり出ていないので同定が難しいが、この個体はひと目でオナガとわかった。

しかし何故上品なのか。

僕は前縁部の紫色が半分白くなっているのが上品さを醸し出している一因ではないかと思う。

もちろん尾が長くスラっとして見えるのもあるだろう。

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【成虫♂写真】20130603 埼玉県秩父市三国峠<1700m>

春型の♂である。

オナガは何故か透けてることが多い。鱗粉のノリが悪いのだろうか。

しかしこの透け透け具合がまた色っぽさと幽玄さを醸しだすのだ。


よく質問される事項として「オオミズアオとオナガミズアオの違い」が挙げられる。

ということでわかりやすいように解説図を作ってみた。

Sp6034343

春型で作ったので、外横線の違いが記載されていないがなんとなくお分かりだろうか?

もちろん各項目に当てはまらない個体もあり、総合的な判断が必要だ。

以前は
オナガミズアオ本州・九州亜種 Actias gnoma gnoma
オナガミズアオ北海道亜種 Actias gnoma mandschurica
オナガミズアオ伊豆諸島亜種 Actias gnoma miyatai

というような具合で3つの亜種に分かれていた。
しかし最新の図鑑では北海道亜種を原名亜種(本州・九州亜種)に含める という記述があった。
伊豆諸島亜種 miyatai はそのまま残るようだが、mandschurica は日本から消える事となった。

しかし、その図鑑には新しい本州・九州亜種の亜種和名が表記されていない。
言うなれば「本土亜種」であろうか。今回は亜種和名を省かせていただいた。

※20130904 ListMj 日本産蛾類総目録 [version 2]に「本土亜種」と記述がされていたのでそれを踏襲する。

春型は4月から、夏型はおおよそ7月から見ることができるが、高標高地では夏型を見たことがない。

ハンノキ属を食樹とするので、ハンノキ類がないとみることはできない。正午過ぎにハンノキを登って羽化しているのを何度も見かけている。


種小名はgnoma (グノ-マ)。 小人、妖精を意味するgnom を女性名詞化したものではないかと思う。

埼玉では上記個体の採れたハンノキ林で有名な秋ヶ瀬の他、旧大宮市、春日部市、川口市、戸田市、草加市、
志木市、北本市、久喜市などの低地帯(おそらくは河川敷)から日高市、横瀬町といった場所で記録があり、
大宮台地の個体群は埼玉県RDBに記載されている。

僕自身は埼玉の最奥地、三国峠でも採集している。

【0084】エゾヨツメ
Aglia japonica

【イボタガ】 【オオシモフリスズメ】とともに 春の三大蛾 と称される種で、一年に一度は会っておきたい種のひとつである。

オレンジの翅色に後翅の眼状紋が青く輝きとても美しい蛾だ。 


しかし、最初に見つけるときはその翅を見せてくれていないことが多い。

翅を閉じて止まってしまう蛾なのだ。

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20120602 栃木県日光市中禅寺湖畔<標高1280m>

しつこく触っていると翅をバタン・・・バタン・・・として動き出す。

落ち着いてきたらようやくその姿をゆっくり鑑賞できるのだ。

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20120505 埼玉県秩父市豆焼橋付近<標高980m>

触角が羽毛状になっているのは♂。

美しい。新鮮な♂はオレンジも鮮やかでとにかく美しいの一言である。

この蒼い眼状紋は構造色なのだが、普通に真上から撮影すると黒くなってしまい魅力が半減してしまう。

蛾の頭の方から光を当てると蒼く撮れるようだ。

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20130527 長野県軽井沢町<標高1400m>

♀は色が薄く、はるかに大型で遠くに止まっているのを見てもひと目でわかる。

僕は♀と相性が悪いのかこの個体だけしか見たことがない。

しかしその大きさは明らかに今まで見たエゾヨツメとは違い大型であったため、♀と確信が持てた。

普段ならスルーである高いところのエゾヨツメを5mの竿をいっぱいに伸ばして捕獲したのだ。


岐阜や長野には極端に黒い粒状紋が多いカキシブエゾヨツメと呼ばれるタイプがいるらしい。

いつの日かそのエゾヨツメも見てみたいものだ。


以前は名義タイプ
北海道亜種  Aglia japonica japonica

本州以南亜種 Aglia japonica microtau に分けられていたが、

現在は明瞭な区別ができないということでミクロタウはシノニムとされ、エゾヨツメ Aglia japonica に統一されたようだ。


種小名は japonica (ヤポニカ)。日本の、という意味だ。


埼玉では広範囲に記録されているが、最近都市部での記録がない。

埼玉県のRDBで 「地帯別危惧種」 に指定されている。

【0077】ウスミミモンキリガ
Eupsilia contracta

ハンノキに依存したキリガの仲間である。

埼玉県では以前から準絶滅危惧(NT)に指定されていた種だ。

昨年改定した環境省RDBにも新たに準絶滅危惧(NT)として掲載された希少種である。


と言いたいところだが。


幸い僕の家からは30分ほど車を走らせると、大規模なハンノキ林が姿を現す。

その林で糖蜜採集を行えば、すぐに大量の本種がやってくる。

正直希少種の雰囲気など微塵も感じさせない飛来っぷりで全飛来キリガの7割くらいを占める。

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20130307埼玉県さいたま市桜区<標高10m>

上記は♂。他のキリガと同じように、オスのほうが微妙に触角が毛深い。


同所で得られた♀はこちら。

S_2
20130307埼玉県さいたま市桜区<標高10m>
若干、触角が細めなのがわかると思う。

しかしこれを現地で見極めるのは至難の業だ。

写真に撮ってよく見てみないとわからない程度の差である。


ハンノキ依存種は生息環境が限られている。

同じようなハンノキ依存の【オナガミズアオ】や【ユキムカエフユシャク】も中々見ることができない蛾だ。

河川敷のハンノキ林が不必要な開発によって減少しないことを祈るばかりだ。


memo.....
ヤガ科 キリガ亜科に分類されています。
秋に羽化する越冬キリガで、4月ころまで見られます。
街灯には殆ど飛来せず、糖蜜を使って採集しないと中々出会えません。

【0066】クロウスタビガ
Rhodinia jankowskii

クロウスタビガ。その響きがなんとなく堪らない。名前を聞くだけで心躍るのは僕だけだろうか。

中秋の夜、山間部へ行くときの楽しみである。

何はなくともクロウスさえいれば、その日は「成果アリ」だ。



蛾の渋い魅力を凝縮したような蛾だと僕は勝手に思っている。

今まで出会った全個体を撮影してるんじゃないかってくらい撮影している。

とにかく出会うと嬉しくって堪らない蛾のひとつだ。



♂は触角が強く櫛状になっている。ヤママユガ科に共通する特徴だ。
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20090921群馬県利根郡片品村東小川<標高1320m>


♀は触角が軽く櫛状。蛾眉という言葉の由来の触角ではないかと勝手に思っている。
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埼玉県秩父市三峰<標高1060m>

以前はロシア南東部の原名亜種、本州亜種、北海道亜種と分かれていたが、

「差異が認められないため原名亜種のシノニムとする」※日本産蛾類標準図鑑よりという記述があった。

よって原名亜種と統合となったようだ。


種小名は jankowskii(ヤンコウスキイ)。 【ヤンコウスキーキリガ】をはじめ、色々なところに出てくるヤンコウスキー氏である。

ヤンコウスキー氏については正体がよくわかっていなかったのだが

虫撮記【虫画像・他】のyyzz2さんが謎を解いてくれた。

出現期は関東近辺では9月後半から10月中旬くらいまでと思う。【ウスタビガ】より早く出現する。

食樹はキハダ。埼玉では準絶滅危惧(NT1)に指定されているが、奥秩父ではちょくちょく見ることができる。

標本画像
SS_2
成虫♂                                   成虫♀


以下記録
1013
20101013長野県軽井沢町大字軽井沢<標高960m>


あと、どうでもいい情報ですが。。。
僕の撮影した渾身のクロウスタビガが2013,4月刊行予定の【世界のネイチャー・フォトグラフィー2013】に掲載されています。

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